おうとう新品種候補「HC1」の概要
                                   中央農業試験場 作物開発部 果樹科
1.特性一覧表
系統名 おうとう「HC1」 組合せ 「南陽」(♀)×「不明」(♂)
特 性 長所 1.収穫盛期が6月下旬と早く、その時期としては大玉である。
2.耐寒性が「北光」並みに強い。
3.ほとんどの栽培品種と交配親和性を有する。
短所 1.「佐藤錦」並に裂果しやすい。
普及見込み面積 30ha
調査場所 中央農試 余市町 深川市
系統名・品種名 HC1 佐藤錦 北光 南陽 HC1 佐藤錦 北光 南陽 HC1 佐藤錦 北光 南陽
幹周(cm)1) 38.8 29.7 39.8 34.6 34.3 27.5 29.7 28 49.5 41.6 42.7 36.2
樹高(m)1) 4.3 3.4 3.8 3.6 4.1 3.7 3.5 4.2 3.8 3.3 3.6 3.7
樹幅(m)1) 3.2 2.2 3.3 3.1 3.1 2.6 3.1 2.7 4.7 3.8 4.2 4.1
満開期(月日)2) 5.14 5.17 5.15 5.19 5.10 5.12 5.12 5.15 5.12 5.13 5.13 5.14
収穫盛期(月日)2) 6.29 6.29 7.05 7.12 6.25 7.01 7.02 7.12 6.28 6.3 7.04 7.16
結実数(個/樹)3) 1301 1451 1423 576 546 1054 543 42 1928 1604 1372 148
収量(kg/樹)3) 8.3 8.6 8.9 5 4.1 6.4 3.6 0.4 16.5 10.1 9.3 1.3
果実重(g)2) 6.3 5.8 6 8.6 7.3 6.2 6.5 8.9 8.1 6.4 6.1 9.6
糖度(brix)2)   13.9 14.2 17 13.2 14.6 16.4 16.5 14.3 15.3 16.8 17.1 12.7
酸度(g/100ml)2) 0.52 0.46 0.7 0.47 0.61 0.6 0.79 0.68 0.64 0.6 0.95 0.5
果皮色 帯赤 帯赤 帯赤 帯赤
※台木はアオバザクラを使用
注1)中央農試、深川市:樹齢8年生時の数値
   余市町:樹齢7年生時の数値
  2)平成14〜16年の平均値
  3)平成14〜16年の積算値
黄斑 黄斑 黄斑 黄斑
着色
果形(縦径/横径) 0.86 0.86 0.92 0.93
果肉色 乳白 乳白 乳白 乳白
果肉の硬さ や軟 や軟
肉質 や密 や密
果汁
耐寒性
裂果
S遺伝子型 S3S5 S3S6 S1S6 S3S6

表. 交配親和性
♀/♂ HC1 佐藤錦 北光 南陽 ○:交配親和性あり
×:交配親和性なし
-:未確認( )内は結実率(平成15、16年の平均値)
HC1 - ○(46) ○(44) ○(27)
佐藤錦 ○(49) × ×
北光 ○(79) ×
南陽 ○(13) × ×

2.おうとう「HC1」の特記すべき特徴
 収穫盛期が6月下旬と早く、「佐藤錦」よりも3日ほど早い。この時期に収穫できる品種に比べ果実は大玉である。耐寒性は「北光」並に強く、凍害発生年においても花芽の枯死は少ない。S遺伝子型はS3S5であり、「佐藤錦」「北光」「南陽」に加えほとんどの栽培品種と交配親和性を有する。

3.北海道で優良品種に採用しようとする理由
 本道におけるおうとう栽培は収穫期間の降雨が本州より少なく高品質の果実を生産できることから、栽培面積は徐々に増加し山形県に次ぐ国内第2位の栽培面積を有している。また、おうとうは初夏の訪れを告げる果物として消費者に親しまれ、観光果樹園の人気樹種となっており、生産者の栽培意欲も高い。
 本道のおうとう品種は、平成16年で「佐藤錦」、「北光」、「南陽」が栽培面積でそれぞれ35%、33%、15%を占め、このうち「佐藤錦」、「南陽」は増加傾向にある。「佐藤錦」と「南陽」は果実品質は優れるが、耐寒性が弱く、各地で凍害の発生がみられる。また、互いに交配親和性がないため、「佐藤錦」、「南陽」の栽植比率が高まることによって、結実不良の園地がみられる。従って、耐寒性が強く、主要品種と交配親和性を有する品種が強く求められている。
 「HC1」は6月下旬に収穫盛期を迎え、「佐藤錦」より収穫盛期は3日ほど早い。「HC1」の果実は同時期に収穫される「紅さやか」や「佐藤錦」などに比べ大玉である。一般的に果実が大きいことは価格や収穫調整作業に有利である。
 「HC1」は耐寒性が「北光」並に強く、凍害発生年においても花芽の枯死や枝の枯れ込みが少ない。「北光」に加えて「HC1」を作付けすることで凍害に対する危険分散が図られる。また、「HC1」、「北光」に耐寒性台木「チシマ台1号」を利用することにより、耐寒性が制限要因となっている地域への新たな導入も期待できる。
 「HC1」のS遺伝子型はS3S5であり、「佐藤錦」、「北光」、「南陽」に加えてS遺伝子型が判明している現在の本道栽培品種すべてと交配親和性がある。このことは、既存園地に「HC1」を混植や高接ぎすることによって、園地全体の結実の良化が図られる。
 以上の理由から「HC1」を優良品種として実用化することは本道のおうとう栽培の発展に寄与できる。

4.普及見込み地帯
 1)普及対象地域  全道おうとう栽培地域
 2)普及見込み面積 30ha

5.栽培上の注意
 1)裂果防止のための雨よけ被覆を実施する。
 2)「南陽」と同様に黄変落葉することがあるが、生育等には大きな影響はない。