水産研究本部

サクラマス人工種苗生産

サクラマス

親の飼育方法、特徴

親魚は、卵から親魚になるまで飼育池で養成されたサクラマスで、池産(ちさん)系と呼ばれる
2+魚(3年未満2年以上を2+と表記する)です。成熟した親魚を選び出し、採卵を行います。

養成している親魚の成熟具合を職員総出でチェックします。(水産孵化場(現 内水面水試)道南支場)

人工受精に使われるサクラマス親魚です。上がオス、下がメスです。(同)

受精・ふ化の方法、特徴

腹部の水分を乾いたタオルで拭き取り、メスの腹を切開して卵を取り出し、オスの精子をかけ、よく混ぜてから卵を水に漬けます。この受精方法を乾導法といいます。
受精前に卵が水に付くと卵門が閉じてしまい、また、精子が水に付くと運動を始めてしまうため、受精前には出来る限り水分をとり除きます。受精卵を水に漬け、しばらく吸水させ卵が固くなってからふ化器に収容し、発眼するまで飼育します。発眼した卵を光が入らないようにした水深の浅い養魚池に移し、ふ化を待ちます。

親魚は、採卵時に暴れないように電気でショックを与えます。(水産孵化場(現 内水面水試)道南支場)

メスの腹を割いて卵を取り出しているところです。(同)

オスの精子をかけ受精させます。(同)

卵と精子をやさしく混ぜた後、しばらく吸水させます。卵は吸水すると堅くなります。(同)

発眼卵です。黒く見えるのが目です。(同)

ふ化した仔魚です。仔魚は餌を食べず、お腹に付いた栄養の入った袋(さいのう)から栄養を吸収します。(同)

餌料の種類、特徴

幼稚魚や成魚などに与える餌は、発育段階に合わせたサイズで、栄養価の高い人工飼料です。
 

種苗の性質、飼育時間、期間

採卵の翌年3月くらいから餌を与え始め、約2ヶ月の飼育で体重が1g程になった稚魚(1年魚)を放流する方法を0+春稚魚放流といい、約1年2ヶ月の飼育で体重が30g程になった幼魚(1年魚)を放流する方法を1+スモルト(淡水から海へと向かう際に、海水に適応することにより、外観が銀白色になることから銀毛とも呼ばれる)放流といいます。放流は0+春稚魚放流、1+スモルト放流ともに5月頃に行います。
その他の放流方法として、川床を掘って卵を埋める卵埋設放流、0+魚の秋放流があります。 

0+稚魚です。(水産孵化場(現 内水面水試)道南支場)

1+スモルトです。(同)

中間育成

ふ化した仔魚は、さいのうからの栄養を摂り養魚池の底に敷き詰められた砂利やその代替え品の隙間で冬を過ごします。さいのうがなくなる早春に浮上し、餌を求めて遊泳を始めます。飼育池に移した後、給餌飼育を行い、稚魚放流の場合は春に放流します。秋放流やスモルト放流の場合は、さらに大きな飼育池に移して放流するまで飼育します。その過程で、河川残留型雄やスモルト化しない小型魚を取り除くため、適宜、種苗の選別を行います。

さいのうから栄養を吸収し、餌を食べるために浮上遊泳を始めだすと、大きな飼育池で飼育します。(乙部町サクラマス種苗センター)

野外のサクラマス飼育池(同)

大きく成長した1+スモルトサクラマス。ピンク色に見えるのが標識(リボンタグ)です。

給餌作業の様子。

種苗放流実績

(平成16年春:檜山管内放流数)

施設名0+稚魚1+スモルト
水産孵化場(現 内水面水試)道南支場67万尾 17万尾
乙部町サクラマス種苗センター - 55万尾

放流時の大きさ、方法、場所

 0+稚魚は約5センチメートル、約1グラム、1+スモルトは15~16センチメートル、30~45グラムで放流しています。放流方法は、飼育池から直接放流するか、檜山管内の他の河川に輸送して放流します。また、1+スモルトは、檜山管内の港で海水馴致を行った後に放流する場合もあります。

トラックに積んだ水槽に収容し、放流する河川まで輸送します。(乙部町サクラマス種苗センター)

檜山管内の河川にトラックで輸送して放流しているところです。

完全にスモルト化(銀毛)した幼魚です。

標識方法としては、鰭カットの他、このようにリボンタッグを付ける場合もあります。(後志管内)

漁港に設置した生け簀に1+スモルトサクラマスを収容し、海水に馴らしてから放流する方法も行われます。

種苗生産について

 1 種苗生産のあらまし
北海道沿岸の重要な漁業資源であるサクラマスは、1880年代後半頃から人工ふ化放流を行っており、当初の方法はサケ稚魚のように小型稚魚を直接河川へ放流していました。1980年代半ばからは、回帰率の向上を目指した試験研究が行われるようになり、放流後すぐに降海できるまでに飼育した種苗を降海時期に合わせて放流する「スモルト放流」への取り組みが始められました。近年では、全道で様々な放流方法で毎年約900万尾を放流しています。

2 種苗生産方法・工程等
水産孵化場(現 さけます・内水面水試)道南支場で種苗生産に使われるサクラマスの親魚は、主に卵から成熟し親魚になるまで3年間飼育池で養成された池産(ちさん)系です。9月になると職員総出で親魚を1尾ずつ触診し、成熟した親魚を選び出し、採卵と受精を行います。
池から揚げられた親魚は、採卵時に暴れないように電気でショックを与え採卵に回されます。腹部を乾いたタオルで拭き、雌の腹を切開して卵を取り出し、雄の精子をかけ受精させます。およそ雌15尾につき雄3尾で受精させます。雌一尾あたりの平均抱卵数は1,200~1,300粒です。受精卵を吸水させたのち、発眼するまでふ化器に収容します。
受精からふ化までは水温8~10℃で約50日を要します。(積算水温450℃)
ふ化の近い発眼卵を養魚池に移し、ふ化を待ちます。ふ化後さらに50日、受精後の積算水温約900℃で浮上を始めます。そのあと稚魚となった人工種苗を、放流までの間、飼育池で給餌飼育します。
種苗は、飼育池から直接放流するか、他の河川に輸送して放流します。0+稚魚は放流後さらに1年間を河川で生活するため、密度過多にならないよう上流域数カ所に放流数を少しずつ細かく分けて放流します。1+スモルトは降海時期に合わせて放流します。
乙部町サクラマス種苗センターでは発眼卵を搬入し、ふ化後飼育された1+スモルトの一部を港で海水馴致後に放流するか、檜山管内の河川に輸送放流しています。
一部の種苗には標識(鰭の一部をカット、又は、タグと呼ばれる標識票を装着)を付けて放流しています。また、放流効果を把握するため孵化場、役場、漁協、漁業者、指導所が協力して市場調査を実施しています。

市場調査:漁獲物中に標識されたサクラマスが何尾いるかを確認し標識魚は魚体測定します。(ひやま漁協乙部支所市場)

漁獲された標識放流魚です。丸で囲んだ部分が標識として鰭をカットされた部位です。

協力・取材・編集
協力: 北海道立水産孵化場(現 道総研 さけます・内水面水試)道南支場
乙部町
乙部町サクラマス種苗センター
ひやま漁業協同組合 乙部支所
取材:檜山南部地区水産技術普及指導所
編集:中央水産試験場普及指導員(現 後志北部地区水産技術普及指導所 普及指導員)