水産研究本部

カキ人工種苗生産(シングルシード)

カキ

親の飼育方法、特徴

母貝には厚岸産の天然マガキと養殖中のマガキ(シングルシード)を使用します。これらのカキを施設内の母貝飼育水槽で12月上旬から1月下旬までの約2カ月間、20~22℃で積算水温が600℃になるまで飼育し、成熟させたものを用います。
(積算水温とは、飼育期間中の日平均水温を累計したものを意味します。)

厚岸産の母貝です。

母貝を加温しながら飼育する水槽です。

受精・ふ化の方法、特徴

外観から雌雄の判別はできないため、殻を開いて軟体部に切れ目を入れて、顕微鏡で卵、精子を確認して雌雄別に収容後、媒精(人工受精)を行います。この方法を切開法といいます。
媒精は2月上旬に行い、この後、水温25~28℃で14~16日間、幼生の飼育を行います。幼生の大きさは、受精直後で0.05~0.06ミリメートル、稚貝に変態した時には0.3~0.35ミリメートルです。
受精後、一定の期間は浮遊幼生として水中を漂いながら、さまざまな成長段階を経て、身近にある物に付着して、稚貝となります。この後、稚貝が殻高3~5ミリメートル以上の出荷サイズになるまで施設内で育成を行います。これを中間育成といいます。

幼生を飼育する水槽です。

幼生の成長段階のひとつのアンボ期幼生です。

稚貝になる直前の成熟幼生です。約0.35ミリメートルです。

稚貝に変態した直後です。

餌料の種類、特徴

幼生時には植物プランクトンのキートセラス(Chaetoceros calcitrans)を主体にイソクリシス(lsochrysis galbana)またはパブロバ(Pavlova lutheri)を添加したものを与えます。
稚貝に変態後の中間育成時にはキートセラスだけを与えます。餌料である植物プランクトンの培養は、栄養塩を加え、通気と照明を与えたフラスコで行う通常の培養方法(最大7リットル)の他に、ここでは、最新の500リットル薄型特殊容器を用いた自動培養システムで一度に大量に培養を行っています。
このとき、通常の栄養塩と通気、照明に加え、プランクトンの光合成を促進させるため、二酸化炭素を添加して行います。
 

餌料として与える植物プランクトンのキートセラス(Chaetoceros calcitrans)です。

フラスコを用いた通常の培養方法です。

大量自動培養システムです。

種苗の性質、飼育時間、期間

幼生から稚貝に変態するときに、稚貝を一つ一つバラバラにするため、約0.2ミリメートルに粉砕したカキ殻に稚貝を付着させます。これをシングルシード方式と呼びます。
採苗は採苗用水槽内にふるいを設置し、その上に付着基質(粉砕したカキ殻)を敷き、付着直前の幼生を収容して行います。沈着は1週間程度で終了し、その後中間育成に移ります。 

採苗用の水槽とふるい。

付着基質の粉砕したカキ殻です。(約0.2ミリメートル)

採苗した稚貝です。(殻高0.8ミリメートル)

中間育成

厚岸町カキ種苗センターでの中間育成は、最新の育成システムで自動的に飼育を行っています。システムの概要は、中央の角形水槽を挟み、片面13基、計26基の円形の循環水槽(全体で6トン)からなり、この円形水槽で育成します。
円形水槽内には2段のふるいを設置し、それに稚貝を収容します。ふるいの目合いは稚貝の成長に合わせて変えます。水槽の底部に給水し、上部から排水します。餌料は循環水に自動的に添加され給餌されます。
26基の水槽を使用して出来上がり(殻高3ミリメートル以上)で100万個の稚貝(円形水槽1基で約4万個)を育成できます。水温は、25℃で約40日間の飼育を行います。

自動育成システム。角形水槽と円形の循環水槽です

円形水槽内の稚貝です。

円形水槽と奥の餌料収容水槽です。

餌料を収容した水槽。この水槽から自動的に餌料が供給されます。

中間育成されて、殻高3~8ミリメートルに成長した稚貝です。

出荷の方法

 中間育成が終了した稚貝は、養殖用種苗として地元の厚岸漁協に販売されます。
5月中旬から3~5ミリメートル程に成長した稚貝をタマネギ袋に収容し、海水入りの発泡スチロール製の箱で輸送します。
その後、各漁家で1ミリメートル目合いの養殖用籠(丸籠)に収容し、養殖を開始します。

稚貝を水槽からタマネギ袋に移し替えて出荷の準備です。

出荷される稚貝です。

稚貝の受け取り風景です。

養殖用の籠(丸籠)です。

キンチャク型の丸籠。

貝の出し入れ口が広く、作業が容易な形状のキンチャク型が主流です。

丸籠に稚貝を収容している様子です。

種苗生産について

 1 種苗生産のあらまし
厚岸漁協ではホタテガイ貝殻に付着させた天然種苗(カキ原盤)を他県から移入し、養殖を行っていますが、厚岸町では将来の地場産種苗の安定確保を目的として、付着稚貝の時から単体で育成する「シングル・シード方式」による一千万粒規模の人工種苗生産施設を建設し、養殖用種苗として地元漁業者へ供給しています。

2 種苗生産方法・工程等
母貝には、養殖しているシングルシード及び厚岸湖内の天然貝を使用します。これらの母貝は12月から翌年の1月までの2ヶ月程度、種苗生産施設内の水温調整をした水槽で飼育し、人為的に成熟させます。
媒精は2月上旬に行いますが、外観からは雌雄の判別が困難なため、軟体部を切開し、顕微鏡で卵、精子を確認後、雌雄別に卵と精子を採取し媒精します。
受精卵はこの後浮遊幼生となりますが、幼生は2週間ほどで沈着し稚貝となります。この間幼生には、浮遊珪藻といわれる餌(キートセラスにパブロバを添加したもの)を与えます。幼生の沈着には、約0.2ミリメートルに粉砕したカキ殻を付着基質として用います。
このときの稚貝の大きさは0.3~0.4ミリメートルです。その後、循環水槽と自動給餌装置を組み合わせた育成システムに収容し、3ミリメートル以上になるまで40日ほど育成します。この間の餌は、珪藻のキートセラスを給餌します。
5月中旬に養殖用種苗として出荷しますが、このときの大きさは3~5ミリメートルで、タマネギ袋と海水入り発泡スチロール箱に詰めて輸送します。各漁家では配布を受けた稚貝を、1ミリメートル目合いの丸籠に収容し養殖を開始します。
協力・取材・編集
協力:厚岸町カキ種苗センター
取材:釧路地区水産技術普及指導所
編集:釧路水産試験場普及指導員(現 釧路地区水産技術普及指導所 普及指導員)