水産研究本部

試験研究は今 No.62「オホーツク海域のホタテガイは小さくなっているか~」(1991年4月19日)

試験研究は今 No.62「オホーツク海域のホタテガイは小さくなっているか?」(1991年4月19日)

Q&A? オホーツク海のホタテガイは小さくなっているのでしようか?

  オホーツク海沿岸における地まきホタテガイは、平成元年と2年に顕著な成長不良が見られ、貝柱製品の中に小さいものが多くなったことが話題になり、ホタテガイの小型・軽量化の問題がクローズアップされました。

  しかし、一概に小型・軽量化と言っても、貝殻が小さくなったのか、貝の重さに比べて貝柱の歩留まりが低下したのか、製品としての玉のサイズが小さくなったのかなど、いろいろな意味があり、その原因はそれぞれ違って きます。

  たとえば、若齢の天然発生貝を混獲すると、貝柱製品の中に小さいものが増えますので全体としては貝が小型・軽量化したように見える場合があります。

  したがって、貝が小型・軽量化しているかどうかを調べるためには、同一年齢の貝について比較検討する必要があります。また、同一年齢の貝が小型・軽量化したとしても、それがある年の特異な海洋環境等を原因とする短期的な現象なのか、貝の現存量の増加や海洋環境の長期変動などを原因とする長期的な現象なのかを見分ける必要があります。

  それでは、オホーツク海のホタテガイに長期的な変化があるかどうか、各地区で共通し比較できるデータとしては、現存のところ貝全体の粗重量と水温しかないため、これを用いて検討した結果を紹介します。

  検討には、湧別沖、常呂沖、紋別沖における3年貝を使いました。下図は秋の資源量調査の時に測定された貝の平均粗重量の経年変化ですが、3海域ともに変動が大きく、50~70グラムの変動幅で増減を繰り返しています。この変動の上がり下がりの程度を統計学的に分析すると、成長の悪かった元年と2年のデータを含めても、従来の変動幅以上に下がる傾向は認められず、検討につかった各地区の貝の粗重量からは、ホタテガイの小型・軽量化の傾向は認められませんでした。また、水温からみると、元年は流氷が接岸しなかったにもかかわらず5月の水温は例年に比べて低水温でした。また、元年、2年は連続して夏期の高水温期間が長く、水深40~45メートルの放流海区で18度以上の水温を高水温の目安としてその日数を数えてみると、63年には2日しかありませんでしたが、元年と2年はどちらも32日間ありました。これらのことから元年5月の低水温と、8~9月の高水温によって成長を阻害されたホタテガイがさらに2年の高水温によってダメージを受けたため成長が悪かったのではないかと考えられます。
    • 秋の資源量調査の時に測定された貝の平均粗重量の経年変化
  このような成長不良は今後も水温やその他の要因によって起きるかもしれませんが、その時に必要なのは各地区で共通したデータです。

  そこで、網走水試では、湧別漁協と共同で、各地区にどのようなデータをそろえれば、この問題に対処できるかを検討してきました。
この結果、毎月1回程度の測定でも貝柱湿重量、殻重量、軟体部湿重量などを測定すれば、貝の成長をモニターでき、とりわけ貝柱湿重量の測定は、各海域の貝柱歩留の季節変化や年変化などを比較する貴重な資料となることがわかりました。

  たとえば、2~4年貝では春と秋の年2回の成長期があり、その間の8月には全湿重量(殻+軟体部湿重量)と軟体部湿重量が減少しているのに、貝柱湿重量では、その減少は検出できませんでした。これは貝柱がこの時期にグリコーゲンの含有率が減少する反面、水分が増加するためで、重量を計るにも貝柱湿重量ばかりでなく軟体部湿重量などの測定も必要なことがわかりました。また、63年と2年の同一年齢の軟体部湿重量の季節変化 を比較すると、2年には8月の全湿重量の減少がより顕著であることもわかりました。

  これらをもとに平成3年度から、沿岸漁協、指導所、網走水試が共同で、従来の資源量調査に加え、「成長曲線」「成長度分布調査」「漁獲物調査」の3点について4年間の一斉調査を行います。

  この3つの調査を追加した理由は、ホタテガイの測定と水温、塩分等について、観測する「成長曲線」の調査からは、成長の季節変化、成長と水質環境との関係及び年齢の判定基準がわかりました。資源量調査時に実施する「成長度分布調査からは、底質や生息密度等漁場の特性と成長の関係、また、漁獲量を個体数に換算する「漁獲物調査」からは、販売のための成長度の監視のほかに、年級群別の天然発生貝の量がわかるからです。さらに、一斉調査によって長期的、短期的な成長不良の原因の特定や海域ごとの適正放流密度、オホーツク海域におけるホタテガイの環境収容力を検討する資料を得ることができます。(網走水試)