水産研究本部

試験研究は今 No.69「塩たらこ製造における天然色素の利用について」(1991年7月5日)

塩たらこ製造における天然色素の使用について

はじめに

  平成元年度版「食品工業動態調査報告書」によりますと、昭和63年度の塩たらこの生産額は、411億円で、これは北海道の水産加工総生産額の6.3パーセントを占めています。これに辛子明太子などの調味加工品を加えますと、たらこ製品の比重は、さらに高くなると思われます。塩たらこ、いわゆる紅葉子の製造には、着色のための色素や鮮やかに発色させるために亜硝酸ナトリウムという添加物を使用するのが一般的です。亜硝酸ナトリウムを使用する塩たらこの製造については、製造基準(マニュアル)が定められており、これを守ることが義務付けられています。また、製造の許可を受けた指定工場しか作られないことになっており、さらに、業界の自主検査に合格した製品しか市場に出せない仕組みになっています。

  塩たらこの消費動向では、製品の色調度合が重要な要素となっておりますが、食品の安全性については消費者の関心が高まっており、また、使用した食品添加物は、すべて表示しなければならないという方向にあるため、消費者ばかりではなく加工業界においても天然物への志向がいっそう強まってきております。

  塩たらこの製造基準では、天然色素使用による着色の方法は決められておらず、また、市販品については色素の種類、配合などはそれぞれの企業が独自に行っているのが現状です。このため塩たらこに対する天然色素の使用法について明らかにすることが必要になりました。

  これまで、塩たらこの製造法に関する試験研究を行ってきた北海道立中央水産試験場と消費動向や品質評価などを加盟している加工場を通じて把握できる北海道水産物加工協同組合連合会が昭和63年度から平成2年までの3年間、共同研究を行いましたので、その概要をお知らせします。

試験の方法

  原料卵は、岩内、べ一リング海、羅臼産のスケトウダラ卵を使用しました。これまで使用されている人工色素と比較しモナスカス色素(紅麹菌から抽出、赤~暗赤色系)、ビートレッド色素(赤ビートの根から抽出、赤~赤紫系)、コチニール色素(サボテンに寄生するエンジムシから抽出、燈~赤紫系)、クチナシ色素(クチナシの果実から抽出、黄系)、ラック色素(マメ科の植物に寄生するラックカイガラムシから抽出、燈~赤紫系)などの天然色素を単独にまたいくつか配合して、通常行うように原料卵を漬け込んで製品とした後、色の染まり具合い(染着性)や色調の良否、色調の均一性などを検討するとともに、何日か貯蔵して色の変化についても検討しました。また製造した塩たらこを札幌市のストアに持ち込み、実際に塩たらこを取り扱っているスタッフに市場性を検討してもらいました。なお、使用した天然色素は、すでに飲料、菓子等に使われているものです。

試験の結果

タラコの生産
  天然色素を単独に使用した場合、沈着性から適正な添加量は、原料卵1キログラム当たり、モナスカス色素2グラム、ビートレッド色素3グラム、コチニール色素6グラム、ラック色素0.1グラムでした。染着性や色調の均一性及び赤色の強さなどを総合的に評価した結果では、モナスカス色素、ビートレッド色素、コチニール色素、ラック色素の順位になりました。しかし、どの色素も単独使用では満足の得られる色調とならなかったので、天然色素を種々配合して検討しました。

  ビートレッド色素、コチニール色素、クチナシ色素の2種または3種を組み合わせて使用した結果、次の順位となりました。なお、添加量は原料卵1キログラム当たりのものです。
  1. ビートレッド色素8グラム、クチナシ色素0.5グラム、コチニール色素1グラム
  2. ビートレッド色素6グラム、クチナシ色素0.75グラム
  3. ビートレッド色素8グラム、クチナシ色素1グラム
  4. ビートレッド色素6グラム、クチナシ色素1.2グラム
  貯蔵中(5度)の色の変化は、人工色素使用のものと大差なく、紫外線に対してはむしろ天然色素を使用したものの変化が小さく、優れていました。コストは、原料卵1キログラム当たり、人工色素では0.4~0.6円であるのに対して、天然色素では19~28円と割高になります。

  ストアのスタッフによる検討結果ではいずれの製品も色調がよく、食品添加物の全面表示という情勢の中で、コスト的な問題があっても、消費者の天然物志向から市場性が十分期待できるとの評価が得られました。なお、平成3年7月から合成、天然を問わず使用した全ての食品添加物は、表示することに法律が改正になりますので注意して下さい。(中央水試)