水産研究本部

試験研究は今 No.71「促成サクラマスによる増殖法法について」(1991年7月19日)

促成サクラマスによる増殖方法について

  サケ・マスの仲間は海に下る前に体色が銀色に変わります。このような特徴をもった個体をスモルトと呼びます。このスモルトの大きさは、カラフトマスやサケのように0.3~1.0グラムという小さなものから、ギンザケ30~50グラム、マスノスケ4~40グラム、大西洋サケ30~50グラムのように大きなものまで色々あります。

  桜の咲く頃に日本海沿岸を中心に来遊し、一般に本マスと言われるサクラマスのスモルトは10~30グラムと大型で、河川での生活から計算して1年半から2年半と、浮上後間もなく海に下るサケやカラフトマスに比べかなり長くなります。したがって、サケと同じように、春、1グラムサイズで川に放流しても最低翌年の春までは川に留まり、成長しなくてはなりません。

  ところで、そのサクラマスの稚魚(ヤマベ)が生活する川の環境はどうなっているのでしようか。残念ながら発電、治水などのダムの乱立、山林伐採、河川改修工事さらには都市化によって年々悪化の一途をたどっています。このため、昭和54年度から河川工作物への魚道の設直を進めていますが、まだまだ設置率は低く、ヤマベが生息するのに好ましい条件が守られている川はあまり多いとはいえません。そのうえ、ヤマベは釣人に大変人気があり、禁漁河川(保護水面32河川、資源保護水面12河川)以外の川に放流しますと、釣人がどっと押し寄せ秋までにかなりの量の放流魚が釣られてしまうことがこれまでの調査で分かってきました。

  したがって、現状の中でサクラマスの増殖事業を成功させるには、スモルトになる20グラム前後まで飼育し、それを川あるいは海に直接放流することが最も有効な方法といえます。この試験事業は民間、道、国の孵化場で現在進められており、稚魚放流よりも効果のあることが証明されています。ただ、この方法だと専用の施設を使って長期間飼育しなければならず、担当者は飼育管理や病気の予防にたいへん神経を使います。もし、期間が年間短縮でき、スモルトが半年で作れるしたら、事業の効率は飛躍的に高まるかもしれません。
回帰したサクラマス
 道立水産孵化場森支場では、昭和40年からサクラマスの天然種卵の不足を補うため、スモルトをそのまま淡水池で飼育して親魚にまで育て、それから大量の卵を生産する、いわゆる池産サクラマスによる種卵生産事業に着手しました。当初は飼育技術の未熟さや病気の発生等により種卵生産量は不安定な状態が続きましたが、昭和55年以降技術面の改善が図られ、今では森支場と熊石支場を合わせると、天然遡上親魚から得られる採卵量の約2倍に相当する1800万粒の卵を生産することができるようになりました。そして、この事業を進める中で、森支場では継代飼育による飼い易さと冬期間の高水温飼育が功を奏して、秋に採った卵をわずか半年近くでスモルトすることに成功しました。

この促成スモルトがサクラマス増殖事業に使える種苗であるかどうかを調べるため、平成元年から試験放流を森支場管内の漁協の協力を得て実施しています。その方法は、単に脂鰭や腹鰭を切って標識を付けたスモルトを川に放すのではなく、少しでも歩留まりを上げるため、陸上の飼育施設で淡水から海水環境に徐々に慣らした後、海浜または海中網生簀での中間育成を経て放すものです。

スモルトは20グラム前後で海に降り、索餌回遊して、わずか1年で約100倍の2キログラム前後の大きさになってもどってきます。ですから、サケに比べると、海での成長は非常によいと言えます。昨年の春は、漁協の市場で103尾のサクラマス親魚を調査し、その中に7尾の促成スモルト由来の回帰親魚を発見し、今年も5月中に523尾の中から18尾発見しました。このことから促成サクラマスが漁業資源として利用されていることがわかりました。しかし、その大きさは平均で約1.3キログラムと天然の約1.9キログラムと比べやや小ぶりでした。これはスモルトの放流時期が6月中旬と天然のスモルトと比べ1ヶ月も遅く、このことがサイズの小型化に影響を与えているのではないかと考えています。

そこで、スモルト放流時期を天然魚の時期に一致させるため、親魚の産卵時期を1ヶ月ほど早めることにしました。

サクラマスは夏至が過ぎて日の長さが短くなっていく秋に産卵します。このようなタイプの魚の場合、自然の日長より早い時期に日長を短くしてやると、産卵時期が早まることがすでに証明されています。この方法を使えば、普通ならば9月にしか採れないサクラマスの卵が、8月に簡単に採れるようになります。

さらに回帰効率を上げるため、同じ池産サクラマスでも川に放流し、海を回遊して再び川に戻ってきたいわゆる回帰系の池産サクラマスを使います。既存の池産サクラマスは何世代も海を経験しないで飼育されてきたため、回帰能力が低下している可能性があるからです。

このように改良した試験事業を来年から始めますが、その成果はこの紙面でまた紹介したいと思います。(孵化場森支場)