水産研究本部

試験研究は今 No.73「コンブに付着するハイドロゾア」(1991年8月2日)

コンブに付着するハイドロゾア

  養殖コンブの身入りが進み採取時期が近づくにつれ、コンブの表面が黄褐色をした糸状の”ケ”で覆われるようになります。一見、海藻が付着しているように見えますが、これはモハネガヤという腔腸動物のヒドロ虫類(一般にハイドロゾアと呼んでいる)に属する動物で、イソギンチャクやサンゴに近い仲間です。やっかいなことに、この種は走根がコンブの組織の中に入りこみ、コケムシを剥離するような洗浄機では簡単に除去出来なくなります。モハネガヤが多量に付着した養殖コンブは品質低下を招くとともに、除去作業にあたる漁業者が皮膚炎や喘息などのアレルギー症状をひき起こすなど、漁業生産上、あるいは漁民の健康上から大きな問題になっています。

  また、このことは道南に限ったことではなく、羅臼でのオニコソブや利礼両島でのリシリコンブ養殖でも同様の被害に悩まされています。その対策として、養殖水深を調整したり、あるいは養殖綱を波打ち際まで移動させ波浪でコンブ葉面を砂に打たせることによる除去が試みられていますが、モハネガヤ自体の生活が不明なこともあって期待できるほどの効果があがっていません。

  そこで、津軽海峡域でのモハネガヤの生活の実態を明かにし、防除のための知見を得る目的で、付着時期、成長、生殖等について調査しましたので、函館市石崎での調査結果について簡単にお知らせします。

  モハネガヤは6月上旬にはすでに促成マコンブに付着しているのが確認できましたが、この時期の個体群は小型であるため肉眼では簡単に見い出せません。しかし、水温の上昇する7月初旬(15度)には急速に成長し、同時に成熟も進み、中旬(17度)には生殖莢(キョウ)が形成され、内部には卵を観察することが出来ます。このことからモハネガヤは水温17~18度になる7月中旬に幼生を放出し、コンブに付着します。ですからこの時期には走根長が30センチメートルに達する親の個体の他に、付着直後の無数の微小な群体(第二世代)(コンブー枚あたり最高354個体の付着が計数されました)を観察することができます。コンブに大きな被害を与えるのは主としてこの第二世代の群体です。この付着初期の群体は付着力が弱く、調査のために脱落を防ぐことさえ困難な位で、除去がすこぶる簡単ですが、これらはわずか10日から2週間もすれば立派な”ケ”となり、もう取り除くことが出来なくなります。この第二世代のモハネガヤが成長する前に収獲を終えると問題はないのですが、残念ながらこの2週間位が養殖コンブの身入りの時期にもあたりますので、品質の良い養殖コンブの生産のためにはどうしても収穫が遅くなりがちです。

  私どもが明らかにしたモハネガヤの生活史の特徴から、第二世代発生直後の除去作業が有効な対策と思われますが、具体的な作業方法などについては毎日沖で養殖コンブに接している皆様のほうが、より実用的な方法に気づかれるのではないでしょうか。

  チエを出し合って”ケ”被害を防止し促成コンブ養殖業を健全に発展させたいものです。
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