水産研究本部

試験研究は今 No.75「漁業者と研究者との対話」(1991年8月30日)

水試よもやま話 漁業者と研究者との対話

水試よもやま話
  サンマ棒受網漁業が始まった昭和25年以降、昭和52年頃までは、釧路水試に道内はもとより、本州の漁船や、道東管内の冷凍加工業者、さらに報道機関などから、連日電話などで漁況の見通しに関する問い合わせが殺到しました。

  中でも、昼頃になると、サンマ漁船の漁労長からは、今日の午後2時に釧路から出港するが、どの方向で、何時間走ったら好漁場に着くか、また釧路や厚岸、根室の冷凍加工業者からは、女工さんを沢山雇っているが、大型魚の最盛期は、いつ頃になるか、さらに北電からは、サンマ冷凍のための電力需用を確保するので、9~10月釧路、厚岸、花咲各港に1日平均して何トンの水揚げがあるかなど、その場では答えられない、鋭い問い合わせもありました。
漁業の様子
  それに答えるため、資源状態や移動回遊及び、漁場形成に関する課題を設定し、その内容を科学的に明らかにする一つの方法として、次の調査を実施しました。

  朝6時から8時頃まで、釧路市錦町漁場市場(現在フィッシャーマンズワーフ)や副港において水揚中のサンマ漁船30隻ないし50隻の内、10隻位から、漁船の規模、魚探の有無、集魚灯光力の大きさ、操業回数と時間、漁獲量、漁獲水温、火付の良否、付近の操業隻数、混獲物の種類と数量など、多項目にわたって、聞き取り調査を実施し、合わせて生物調査のため、3隻位から魚体標本の採集も行ってきました。

  その際漁業者から漁況情報を提供して戴くだけではなく、水試として蓄積してある海況の現況、年齢成長、移動回遊、産卵などの知見を述べ、それをもとに船長室で活発な意見交換を行いました。また関心の最も強い漁況予測については、予報が当たってないとの厳しい批判もありました。
漁業の様子
  このように、率直に漁業者と研究者との対話により、道内はもとより、千葉県や神奈川県など各県の漁労長および通信士と知合いになり、気軽に貴重な漁況情報を収集できたことは、試験研究の向上に大いに役立ってきました。その成果は道サンマの総合、理事会、指導会議などで逐次、報告してきました。

  この調査の経験から一言述べますと、最近、どの魚種にも共通することであるが、浜に出て漁業者と対話する研究者が少ないようです。それは、産業試験研究機関として浜のために貢献するという目的意識と、浜に密着した課題設定の不足にあると思います。漁業者は、漁獲に関してプロなので、浜に出て漁業者と親しくなることは、海の魚と漁獲の生々しい情報が入手出来ます。このことは、試験研究にとって最も大切なことなので、目的をもって、大いに漁業者との対話を深めることに努めるべきでしょう。

  最後に漁業者へのお願いです。今、水試では資源管理型漁業推進のため、資源として加入してくる前の幼魚や未成魚時代の生活実態の把握、前浜資源の正しい評価、さらに精度の高い資源の見通しなどについて、全力をあげて取り組んでおります。それにはどうしても漁業者の協力が必要となります。義務づけられた操業報告書は、正しく記載し、早めに提出することを必ず実行していただきたいと思います。(釧路水試 特別研究員 小林 喬)

トピックス

知事と水試・孵化場職員との懇談会

  去る8月6日、道庁3階知事会議室において知事と若手を中心とする水試及び孵化場職員との懇談会が催されました。

  水試から7名、栽培漁業センターから1名、水産孵化場から2名の職員が日頃行っている研究についてお話し、知事からも率直な質問や要望などを直接に伺うことができ、昼食を挟んだ1時間30分はまたたくまに過ぎて行きました。

  話題の中心は磯焼け、ヒラメの種苗放流及び資源管理技術、ホタテガイヘの付着物と貝毒問題、エクストルージョンクッキング、イトウの増養殖、バイテクなど。道の施策としての技術力のワンランクアップや試験研究機関の果たす役割あるいは北海道の水産業振興のための課題などに沿って、専門分野に踏み込んだ意見交換を行いました。 磯焼け漁場のウニは何を食べているのか?種苗したヒラメの体色異常とは?放流したヒラメ稚魚の移動は?エクストルージョンクッキングは麻ひ性貝毒に有効なのか?種苗の放流効果を高めるにはどうしたらよいか?など。 今こそ解決しなくてはならない問題点についての質疑応答のなかで、知事の造詣の深さに改めて感心するとともにこれらの問題解決のための若手職員の意気込みが伝わったのではないかと思います。