水産研究本部

試験研究は今 No.90「サクラマス幼魚の釣りによる減耗調査」(1992年1月17日)

サクラマス幼魚の釣りによる減耗調査

  サクラマスは、我国では主に日本海とオホーツク海を中心に回遊しており、所によってホンマス、あるいは10月から1月にかけて南下回遊中の末成魚(300~500グム)をクチグロ、さらに越冬後の産卵回遊中に積丹半島以南の日本海沿岸で漁獲される体高のある超大型個体をイタマスと呼んで区別することがあります。このように日本近海を回帰中のサクラマスは、成長の過程で様々な漁具により漁獲されることから、シロサケやカラフトマスと言った産卵のために沿岸に回遊してきた成魚を漁獲の対象にする魚種と異り、その資源造りや資源管理には難しい面があります。

  本道のサクラマスの沿岸漁獲量は、ここ数年低位安定推移しています。かって、一時期には4000トン余りを漁獲したと言われる沿岸サクラマス資源も、最近は600から900トンの問で変動しています。水産孵化場では、陸上の淡水池で親魚を育てて産卵を得る、いわゆる池産サクラマスの種苗を用いて本道のサクラマス資源造りを行なっています。しかしながら、池産サクラマスの種苗生産の安定に伴って、サクラマス稚魚の放流数の増加に対応して思ったほど効果的に沿岸サクラマス資源が増加していないことが明らかになってきました。

  一体その原因は、どこにあるのでしょうか。現在、プロジェクトチームを組んで精力的に調査研究を続けているところですが、その中で、河川に放流後のサクラマス幼稚魚の減耗に関して、スモルト(ギンケヤマベ)が海に下る春のニヵ月を除いて、遊魚規制の実施されていない一般河川の調査の中で興味深いデータが得られました。すなわち、後志支庁の一般河川の余市川支流に5月に放流したサクラマス稚魚の生息数の変化を、7ヵ所の詞査定点を決めて一カ月おきに投網と/ゾキメガネを用いて調査しました。あわせて、採取されたサクラマスの成長を調べるために、現地で麻酔をかけて体長(尾叉長)を測定し、その後すべてのサクラマスは覚醒後にもとの調査定点に標識して再放流されました。調査は、放流一カ月後の6月から10月まで行ないました。
    • 表1
  調査結果は、表1にまとめたように、一般河川の余市川のサクラマスの生息密度、すなわち1平方メートル当りに棲む個体数は、放流一カ月後の6月では、0.4尾と高い値でしたが、7月ではその35パーセントに相当する0.14尾に激減してしまいました。さらに.8月には、7.5パーセントの0.03尾に減ってしまいました。これに対して、遊漁が周年に渡って禁止されている保護水面の3河川では、サクラマスの生息密度は6月から9月にかけて安定しており、漸増の傾向さえうかがえます(表1)。この時期のサクラマス幼魚の生活は、川の流れの中に定位して、他の個体を排除しながらに活発に餌を食べて成長する段階に当たります。従って、河川内で大きな移動はみられません。このことは、標識魚の再捕からも確かめられました。 さらに、サクラマス幼魚の成長に関しても一般河川の余市川と他の保護水面3河川では、大きな違いが観察されました。すなわち、保護水面に生息するサクラマス幼魚は、生息密度の多寡による成長度合いのよしあしが見られるものの、すべて6月から10月にかけて順調に成長しています(表1)。一方、余市川では、この期間に成長が見られるものの、7月から8月にかけてはほとんど成長しておらず、きわめて強い成長停滞が観察されました(表1)。この7月から8月の成長停滞の原因を調べるために、両月のサクラマス幼魚の体長の頻度分布図を作って比較したところ、8月に体長8センチメートル以上の個体が著しく減っていることが分かりました。調査期間中の天候は安定しており大増水や早魃もなかったことから、以上の結果に基づいて、一般河川の余市川で見られたサクラマス幼魚の春から夏にかけての急激な減耗は、釣りによるものであることが判明しました。

  最近の余暇の増大は遊漁人口の増加を促し、いわゆるヤマベ釣りも例外ではありません。限られた河川を遊漁と沿岸漁業資源の育成の場として使い分けていくために、調整を図らなけれはならない時期にきていると言えます。(道立水産孵化場)