水産研究本部

試験研究は今 No.91「しんかい2000乗船記」(1992年1月24日)

しんかい2000乗船記

  平成3年8月25日、日本海洋科学技術センター所属「しんかい2000」に乗船し、水深577メートルまでの潜航調査を行いました。海底の状況やそこに生息する生物を観察してきましたので報告します。

  しんかい2000はテレビで放映されているとおり、なつしまを母船とした水深2,000メートルまで潜航可能な有人の潜水調査船です。乗員は、操縦士、副操縦士、調査員の3名までで非常に狭い船内で観察を行います。また船外には水温、塩分、流向流速などを測定する機器、泥や付着生物を採集するマジックハンドおよびビデオカメラなどが設置されています。航行は船尾と両サイドの計3基のプロペラによって行い、動力源は船上で蓄電した電力です。船内は常に酸素が送られ気圧もl気圧に保たれているため、陸上生活と同様に通常の観察や調査ができました。

  今回潜航した海域は雄冬岬の西沖で、北緯43°39.5、東経140°50.5の地点から南東に約1,500メートル調査を行いました。

  8月25日午前9時潜航スタンパイ。多少の緊張を感じながらタラップを渡り、しんかい2000に乗り込む。狭いハッチを通り、操縦席の計器のスイッチに触れないように気を配りながら操縦席の下の移住区に潜り込む。この居住区は直径2メートルほどの球状になっており、その中に操縦席があるため非常に狭かった。しかし潜航時はうつ伏せになって覗き窓から観察するため、窮屈とも感じなかった。
しんかい2000資料
 ハッチが閉められ、母船船尾のA型フレームによって海上へ運ばれ着水。青い海の中に母船なつしまのスクリューがゆっくりと回転しているのが覗き窓から見えた。

午前10時56分潜航開始。深く潜るにつれ海の色が変化していった。水深100メートル位になると暗闇の世界にはいった。約40分後水深577メートル地点に着底した。

船外の水温は0.3度、潮の流れはほとんどない(流向流速計はゼロを示す)。

海底は泥場であり、スクリューを逆回転すると何も見えなくなってしまうような粒子の細かい泥であった。また、表面は小さな起伏が多く、いたるところに巣穴のようなものが見られ、何か生物のはったような帯状の跡も見られた。着底後まもなくホッコクアカエビやスケトウダラが見えてきた。海底で観察されたホッコクアカエビの体表は薄いピンク色をしていた。潜航艇が近寄っても逃げる気配はなく、目をキラキラさせ、まるでワニのように歩脚と尾節で体を支えこちら注目しているようであった。
しんかい2000資料
 20分ほど航行した後、再び着底、エビのいる場所に持ち込んだエビ籠(餌は冷凍イカ)を設置し、入籠状況を観察した。約10分ほど経っても変化がないため船外のライトを消して30分ほど待機した。その後、ライトを点灯すると1尾のホッコクアカエビが籠から抜けでようと網目に尾節を絡ませているのが確認された。おそらくライトの光に驚き、とっさに籠から抜け出ようとしたのであろう。また、ツブが1尾、籠の上部にまではい上がってきていた。この場所で泥と海水の標本を採取した後、走行しながら観察を続けた。しばらくして、大量のスケトウダラがどこからともなく集まってきた。おそらく調査船のライトに誘われたのだろう。この時期この海域にそれほど大量のスケトウダラが生息しているのはあまり知られていない。このスケトウダラの群れは浮上時まで調査船についてきた。時には調査船の道案内をするかのように先々へと遊泳していた。

また、ライトに集まってくるプランクトンを盛んに捕食する様子も観察された。航行中いたるところにホッコクアカエビが見られたが、スケトウダラがこれを捕食するような行動は見られなかつた。そのほかにカレイ、イカ、ズワイガニなどが観察された。ゲンゲがヘビのようにとぐろを巻いてじっとしているのは奇妙な光景であった。

午後4時、約4時間にわたる海底での観察を終え、水探547メートル地点から浮上開始。スケトウダラが水深500メートル前後の層まで見送ってくれた。約30分後に浮上、日の光がやけにまぶしく感じられた。(中央水試 漁業資源部 三橋 正基)

試験研究機関おもしろ祭り開催

水産試験場:加工試作品の展示・試食、北海道沿岸で採れた貝類の標本の展示、漁業生物図鑑「北のさかなたち」の販売
水産孵化場:ニジマス天北揚げ・くん製、ワカサギいかだ焼きなどの試食・販売、サケのふ化する瞬間を目の前の水槽で観察
とき:平成4年1月31日(金曜日)午前10時から午後6時30分まで
ところ:ライラックパセオ JR札幌駅 1階 西コンコース