水産研究本部

試験研究は今 No.96「全道初のナマコ種苗生産も手懸ける養殖施設を訪ねて-宗谷漁業協同組合浅海増殖センター-」(1992年2月28日)

浜ウオッチング ~浜の声~ 全道初のナマコ種苗生産も手懸ける増養殖施設を訪ねて -宗谷漁業協同組合浅海増殖センター-

浜ウオッチング
  日本最北端の極寒の地で水産研究に意欲を持った二人の若き研究者が各種種苗生産に取り組んでいる宗谷漁協の増殖施設を紹介します。

  今回紹介するのは、昭和56年に漁協単独で建設したウニ種苗生産施設です。当時としては全道でも先駆的な施設として、地道な生産を続けていましたが、取水条件等の問題で昭和61年に現在の場所に道の補助を受け移転増設し、さらに、昭和63年にナマコの増殖施設として飼育水槽等を増設し、現在に至っています。この施設で実際に飼育を担当している札幌出身の阿戸さん、美幌出身の坂東さんにお話を伺いました。(写真:右が坂東さん、左が阿戸さん)
  今、何を飼育しているのですか
  今は、試験的に越冬させ歩留まりや成長を見るために、中間育成しているウニが10万粒、ホッカイエビ、今年の試験放流用としてマナマコ20万尾ですが、実稼動時にはウニ70万粒、ホッカイエビ8万尾、マナマコ40万尾を生産し、各地先に放流しています。また、ホタテの種苗放流時期には、種苗の活力試験を実施しており春先から忙しい日々を送っています。

  マナマコは生態的に未解明な点が多いと聞きますが。
  当施設の目的は、漁獲した親ナマコを水槽の中で交配させ、誕生した稚ナマコを一定のサイズまで育てて漁場に放流することですが、始めた当初は交配時期も分からず、飼育水温や餌も試行錯誤でした。

  悩んでいることは
  ウニについてはどうしてもここでは冬期間、取水施設への流氷による被害の恐れがあり、12月までに放流しなければなりませんので、ウニの放流サイズを大きくするための餌料や成育環境の改善方法等についてです。またエビの共食いによる生存率の減少等、実際に飼育している種苗のことで悩んでいます。

  施設規模についてはどうですか。
  現在、20の水槽でそれぞれの飼育状態に合わせて種苗の入れ替えを実施しているので、余裕はないものの現体制では充分なものと考えています。

  今、常時何人で飼育されていますか。
  常時2人でやっています。

  水槽の掃除や給餌等も2人でやっているのですか。

  はい、まれにバイトをお願いすることもありますが、ほとんど2人でやっています。

  視察にくる方も多いのでは

  道関係者や市町村関係者が視察にきています。漁業者の方々も最近では気軽に訪ねて来て、激励や色々な情報を提供してくれています。
  ちょっとした話題として、宗谷岬を越えてオホーツク海側でアワビが刺網などにはいっているようで、サンプルを持って来てくれたこともあります。

   維持経費はどの程度ですか。
  年間、私達の人件費を除いて800万円程度です。このうち約7割が組合員の負担金によって賄われています。負担金は水揚げの金額から一定割合で徴収しているもので組合員皆さんの意識の高さがうかがわれると思います。

  苦労されていることは
  私達はウニ等の飼育の他に適地調査や放流効果調査等、実際に前浜に出て潜水調査もやっていて磯船の操船もしますが、前浜の地形が熟知出来ていない時分は随分と苦労してスクリューを曲げてしまったこともありました。

  初めての土地で戸惑うこともあったのではないですか
  今は職員住宅に入居させていただいているので快適なのですが、当初は長屋風の建物で、また、3年間で4回引っ越ししたり、買物もコンビニエンスストアーが出来て楽になりましたが、それまでは結構大変でした。

  平成4年度の計画は
  種苗生産計画をたて、それに基づいてそれぞれの種苗を生産しますが、ナマコについて生態的知見の集積に努力していきたいと考えています。前浜での稚ナマコの発見や放流後の生息状況の調査、中間育成試験などを漁業者の協力のもとに継続して実施していきたいと思っています。

  今後の抱負は
  色々ありますが、今抱えている課題を徐々に解決したいと考えています、今後は種苗の質の向上というか、直接浜の生産にむすびつくように種苗生産技術や放流技術等、技術的にレベルアップを目指したいと思っています。

  長時間に亘りありがとうございました。
  浜の漁業者と密着し、磯根資源の増養殖、栽培漁業を漁業者とともに実践し、この最北の地で海の魅力に魅せられ、全国的にも珍しいナマコ種苗生産の実現に夢ふくらませている若き研究者に工一ルを送りたい。

  ガンバレ!