水産研究本部

試験研究は今 No.98「恵山町で行われたサクラマス海中養殖試験について」(1992年3月13日)

恵山町で行われたサクラマスの海中養殖試験について

  道内のサクラマスの海中養殖への取り組みは、道南日本海側の乙部町で、昭和57年に試験飼育が行われたのが始まりです。その後、乙部町漁協を中心に各地で積極的な取り組みがなされ、養殖技術はほぼ確立され、生残率80パーセント以上で出荷時の魚体重1キログラムにまで成長させることができるようになりました。生産量は、昭和61年の4トンから平成2年には97トンと順調に伸びていましたが、3年には実施件数が減り、減少に転じています。これは、近年のサケマス類の輸入増あるいは天然サクラマス、養殖ギンザケとの競合等の影響もあり、1キログラムサイズに仕上げても、単価は600円前後と下降している現状を踏まえたものとも考えられます。

  サクラマスの養殖形態と沿岸海水温の変化をみた場合日本海側では夏季は高水温となるため、飼育期間は秋から翌年初夏までに限られます。秋に200グラム前後の種苗を投入して、6月で出荷サイズ1.2キログラムが限界と考えられます(図1)。一方、太平洋側では、夏季の水温は比較的低く、越夏周年飼育が可能ですが、冬の水温は著しく低下するので、春に40~50グラムの種苗を投入して1年間飼育しても生産魚のサイズは日本海側を下回ります。収益を上げるためには、従来の魚より大きくして出荷するか、単価の高い時期に合わせて出荷調整することが必要となってきています。そこで、より早くより大きく育てるために、道南太平洋側の恵山海域において、恵山町の古武井漁協が中心となって、平成2年度と3年度、新たなスタイルで養殖試験が行われました。
    • 図1
  1つは、当海域において春から秋まで海中中間育成し大型種苗を作り、これを道南の日本海側に移送し本養殖する試験、もう一つは、孵化場で開発されたバイテク技術によって作出された3倍体全雌(不妊化)種苗を用い、秋までに出荷サイズに仕上げようとする試験です(図2)

  網生簀の設置場所は、恵山町の古武井の沖合い1キロメートル水深25メートルの地点で、比較的沖合いにあり、波浪や潮流の影響を受けやすいため網生簀は分割枠式とし、通常の施設より強度を大きくしてあります。生簀の大きさは13×13x12メートルで、飼育尾数はやや少な目の4~5千尾としました。

  平成2年度は、春に銀毛化した1才のスモルト(ギンケヤマメ)平均体重46グラムを6月中旬に内水面養殖業者から購入して、海水に慣らしてから飼育を始めました。

  餌には、カワハギ、イワシの生魚、粉末の配合餌料とビタミン剤を混ぜ合わせたモイストベレットを使用し、1日当り総魚体重の8パーセントにあたる量を1日朝夕2回にわけて、魚の様子を見ながら手撤きで与えました。この年は、海水温が例年より2~3度高く推移し、サクラマスの飼育水温帯の上限付近20~22度の期間が2ヵ月も続きました。しかし、成長が若干鈍り弊死する魚が少し増えた程度で、暑い夏を乗り切ることが出来ました。10月末には、予想を上回る平均527グラムに達し、大きいものでは1キログラム近くありました。この魚を、活魚運搬船に積み込んで道南日本海側の上ノ国漁協に移送し、本養殖を始めました。その結果、通常種苗よりは3ヵ月も早い2月下旬に1キログラムをこえ、早期出荷が可能となりました。

  2年度の結果から、恵山海域においても、春により大型の種苗を導入できれば、水温の低下する晩秋あるいは初冬までの期間に、出荷サイズにまで成長する可能性が確認できました。そこで、平成3年度は、0才の夏に銀毛化した大型の1才の3倍体全雌スモルト種苗(平均150グラム)を購入し、5月下旬から2年度と同様の方法で飼育しました。すると、この全雌3倍体は、天然のサクラマスではとても考えられないくらい早い時期、即ち10月初めに平均950グラム、11月上旬には1.2キログラムに達しました。2年度の通常2倍体の成長と比べてみると、体長日間成長量は、0.13センチメートル/日とほぼ同じ、体重日間成長率は1.3パーセント/日とやや小さい値を示しました。

  この試験に用いた種苗は、0才の夏に銀毛化しているので、もし通常2倍体であったなら、海中養殖中に成熟が進行し成長の停滞、肉質の劣化が生じる上、産卵期の秋には死んでしまいます。しかし、3倍体の雌では生殖腺は全く発達せず(不妊化)、そのような心配なく、さらに寿命も延び、道南太平洋海域においては周年飼育、長期飼育が容易になります。また、淡水飼育を秋まで継続すれば、400グラム程度まで成長するので、2年度のような海中中間育成をすることなしに、道南日本海側の海域においても、大型種苗の導入を図れるのです。このように、全雌3倍体は海中養殖用種苗として多くの有用性を持っています。ただ、生簀の破損等によって3倍体魚が逃げ出してしまった場合、その影響がどの程度なのかわかっておらず、その使用については慎重に進める必要があります(本紙No,41、45を参照ください)。(水産孵化場)