水産研究本部

試験研究は今 No.100「平成4年度水産試験研究事業紹介-2」(1992年4月10日)

平成4年度水産試験研究事業紹介-2

今回は、水産孵化場で平成4年度から新たに開始する試験研究の内容についてご紹介します。

1:シシャモ資源増大緊急対策試験

  鵡川、沙流川は「シシャモの川」として有名ですが、近年、これらを母なる川とする「えりも以西系群」とよばれるシシャモ資源は極端に減少してきており、このまま放置すれば絶滅さえ心配されることから、地元のシシャモ漁業者は、平成3年の操業を自主的に取り止めるという事態となっています。

  このため、この研究は、資源減少の原因を解明し、適正な資源管理技術を開発するとともに、新たに大量孵化技術を開発し、これらを総合して資源の増大を図ることを目的としています。

  具体的には、河川そ上期を予測し、産卵親魚の保護を図るための対策や、モデル的な孵化場の在り方などを、調査データ等に基づいて立案し、その成果を今後の資源増大に活かしていくことを目指しています。

2:ウィルス感染抑制技術開発試験

  サクラマス資源の増大は、日本海地域の漁業振興を図る上での大きな柱の一つとして期待されていますが、近年、サクラマス種苗にIHNウィルス病の発生が見られるようになってきており、このまま放置すれば増殖事業の大きな支障となる恐れがでてきました。

  これを予防するため、これまで各種の薬やワクチンの開発等が試みられてきましたが、いまのところ有効な手段が見付かっていません。

  このため、ウィルスの感染性を抑制する物質を見付け出し、これを餌に混ぜて与えるような簡単な方法で魚に与え、ウィルスの無い放流用サクラマス種苗を確保しようというのが本研究の目的です。これが実用化されれば、サクラマス増殖事業の進展に大きく寄与することになります。

3:池産サクラマス回帰率向上試験

  日本海地域のサクラマスの増大を図るため、水産孵化場では、昭和46年度より種苗の大量生産が可能な「池産サクラマス~池飼いで育てた親魚から採卵し、それをまた池中養成するサイクルで生産されるサクラマス」の種苗生産技術及び放流技術の開発に取り組んできました。

  しかし、これまで思うような回帰率が得られなかったこから、その原因の解明を行ったところ、従来用いてきた親魚から得られる種苗は、日本海地域への回帰能力が弱いことが明らかになりました。

  このため平成2年度より、日本海地域へ回帰能力を強く持っている日本海北部の暑寒別川・信砂川、及び南部の尻別川に遡上した親魚を導入し、これを用いた池産種苗の生産・放流を行ってきました。

  これにより、回帰率の向上が期待されますが、この効果を更に高めるため、平成4年度より、次の2つの内容の研究を追加して行うことにしました。

  その一つは、「秋放流技術の開発」です。

  現在のサクラマス種苗の放流は、前年にふ化した稚魚を翌年春に放流する「春放流」という方式が最も普通に行われています。
ご存知のとおり、サクラマスの稚魚は、その後1年間河川内で生活し、次の年の春に「スモルト~銀毛となり、海水適応能力を持った幼魚」となって海に下ります。

  このため、「春放流」では、河川生活期間中に、釣り等により数多くの稚魚が減耗したり、また、河川の収容力が限られていることから、放流量が制限されるといった問題があります。

  そこで、稚魚を秋まで飼育して、その間釣り等から保護し、その後放流しようという「秋放流」という方式が考えだされました。
この試験は50万尾の規模で「秋放流」を行い、その効果を確認しようとするものです。二つめは、「0+スモルト放流技術」の開発です。
現在、ふ化した年の翌々年の春、スモルトになるまでの期間稚魚を飼育し、その後放流する「1+スモルト放流」が一部の地域で実施されています。

  この方式は、放流後の滅耗が少なく、また河川の収容力にあまり制限されないなどの利点がありますが、飼育期間が長期にわたるため、飼育管理技術や魚病等の問題があります。

  このため、親魚に当てる光の周期を人工的に調節して産卵時期を早めるとともに、得られた稚魚の飼育水温調節を行うことなどにより、スモルトになるまでの期間を大幅に短縮し、産卵の翌年の春に、海水への適応力を付けた上で、直接海に放流しようとするものです。

  このような新たな技術が実用化されれば、サクラマス増殖事業が大きく発展することになるため、成果が期待されます。(水産部)