水産研究本部

試験研究は今 No.102「ヒラメ放流技術開発の成果」(1992年4月24日)

Q&A? 試験研究プラザから

平成4年1月に、後志南部地区で開催されたプラザで提起された、ウニに関する疑問について2点ご紹介します。

Q1 エゾバフンウニはどのくらい移動するのですか。
ウニは次の3つの要因によって移動します。
  1. 成長あるいは季節的な移動
    エゾバフンウニは成長に伴って、より大き間隙へと生活する場所を変遷します。また季節的に移動することも知られています。
  2. 摂餌活動による移動
    磯焼け地帯に、コンブを投入すると周辺のウニがそれにい集するように、餌のないところに生息するウニは、餌を食べるために移動します。
  3. 漂砂、流れ藻による受動的な移動
    漂砂の影響あるいは時化の時流れ藻に付着したまま動かされます(輸送)。

鹿部での放流試験の結果、3の要因により、人工種苗放流後約2年後に生残個体の約1割が放流場所から岸方向に30メートル以上、最大で約70メートル移動しました。1、2の要因による移動距離は具体的に明らかにされていませんが、これほど遠距離を移動することはないものと考えられています。
Q2 人工種苗を放流する場合、異なる海域に生息する親ウニから生産した種苗を放流すると、放流後の種苗の成長、身入りに好ましくない影響が生じると聞きましたが…?
 日本海産の人工種苗を太平洋に放流すると、成長量が地元の天然群より小さく、また秋に産卵する日本海沿岸ウニ固有の身入りの変化を保持します。このために、漁期(冬期)には放流種苗の身入りは地元の天然ウニより悪くなります(図1参照)。また、太平洋産の種苗を日本海沿岸に放流すると、漁期(夏期)には身の溶けている個体が多くなることから品質面で問題が生じることになります。このため放流する種苗は、地元あるいは近隣に生息し、身入りの季節変化が地元のウニと同じ親から採苗したものを選定しなければなりません。
(中央水試 増殖部 吾妻行雄)
    • 図1

ヒラメ放流技術開発の成果

  我々は石狩湾の余市町前浜をモデル海域として様々なサイズの人工種苗ヒラメを放流しています。また放流後には追跡調査を実施してヒラメが順調に成長しているかどうかなども調べています。平成3年の放流では全長40ミリメートル以下の小さなヒラメを放流しましたが、倣流後の追跡調査で採集された人工種苗ヒラメのうち40ミリメートル以下の割合はごくわずかでした(図1)。同時に採集レた1歳の天然ヒラメの胃中から小さなヒラメ稚魚が発見されたことから、ほとんどのものが他の魚に食べられてしまったものと思われます。他の魚に捕食されにくいサイズで放流するということを考慮すれば、最低でも全長50ミリメートル以上で放流しなければなりません。石狩湾の余市海域では、平成元年に全長6センチメートルと8センチメートルの人工種苗ヒラメをそれぞれ72,900尾および59,600尾放流しました。

  余市群漁協において平成3年12月までに水揚げされた6センチメートルサイズ放流群は推定で750尾、一方、8センチメートルサイズ放流群は推定2,000尾でした。さらに平成3年5月から市場調査を開始した小樽市漁協、古平漁協、美国漁協ならびに岩内郡漁協での推定水揚げ尾数を加えると、6センチメートル放流群と8センチメートル放流群はそれぞれ1,400尾(回収率1.9パーセント)および2,700尾(回収率4.6パーセント)回収されたことになります。6センチメートル放流群と8センチメートル放流群では回収率にに約2.5倍の差がみられました。しかし8センチメートル放流群が放流後1年目から漁獲され始めたのに対して、6センチメートル放流群は主に放流後2年経過して漁獲されているととから、さらに市場での調査を継続し、効果を判断する必要があります。

  人工種苗ひらめの放流の効果は放流海域を中心にはっきりとみられてきました。図2に平成3年5~12月の市場調査の結果を示しました。それによると、集中放流を行っている余市海域を中心にして、周辺海域にも放流の効果が普及していることがわかります。今後はさらに調査を進めて経済効果を推定したいと考えています。
(中央水試 漁業資源部 富永修)
    • 図1
    • 図2