水産研究本部

試験研究は今 No.104「貝掃除をして付着物を減らそう」(1992年5月22日)

「具掃除をして付着物を減らそう」

1:付着物の増加と養殖上の問題点

  噴火湾のホタテガイの生産量は昭和55年以降年々増加傾向にあり、近年では全道生産量の3分の1を占める10万トン台に達しています。噴火湾ホタテガイ養殖の生産高も約200億円前後になっています。こうした生産増は一方で大きな問題を引き起こしています。それは付着物の増大です。

  ホタテガイの養殖は地まきとは違って、ホタテガイを海中に垂下しているため、本来なら岩場などに生息しているムラサキイガイなどの付着生物の格好の生活の場(付着基質)を提供することになります。その量はホタテガイの垂下枚数に比例して近年増加傾向にあります。

  では、どのような点が問題かといいますと、(1)付着生物量が増えることによって養殖施設の浮力が減少するため、それを復元するための浮き玉などの資材費がかかること (2)ホタテガイの出荷時に産出する付着物は、海洋環境を考えると海中に投棄することができず、陸上での処理ということになりますが、処理場が狭いこと、また (3)付着生物の多くは、ホタテガイと同じプランクトンを餌としているので、餌が不足し、ホタテガイの成長に影響を与えることなどです。

2:主な付着生物とその量

  ところで、どのような生物がホタテガイに付着しているかを調べてみますと、その主な種類は、イガイ類(主にムラサキイガイ)・イソギンチャク類・ホヤ類・ヒドロ虫類・フジツボ類であることがわかりました。図にこれらの付着生物の季節変化を示しました。ここで注目すべぎ点は夏場には量的には少なかったムラサキイガイがその後急激に増えだし、ホタテガイの出荷時期にあたる冬から春先には付着生物中の7割~8割以上を占める優占種となっていることです。この時期ムラサキイガイは耳吊りロープの上層を中心にホタテガイを覆い尽くすまでに付着しています。このため、一般には上層ほどホタテガイの成長は良いはずなのですが、中層・下層の方が成長が良くなっているという逆の調査結果が得られました。
    • 図

3:付着生物の除去とその効果

  そこで問題を解決する方法は、(1)付着物を付けさせない(2)付着物が成長する前に除去する(3)付着物の有効利用を図る などいくつかありますが、函館水試、同室蘭支場では付着生物が成長する前に除去する、いわゆる貝掃除試験を行っています。貝掃除とは物理的に付着生物をホタテガイから除去する方法です。7月と9月には手作業により、また10月には最近導入されつつある水圧を利用した機械掃除機を用いてその効果を調べました。

  結果を表に示しました。付着物全量は未処理のものでは1月下旬に215.5グラムでしたが、貝掃除をしたものでは、2月上旬にその10分の1の2.1グラム(1連あたり)でした。またこのうちムラサキイガイの付着量も18.7グラムから1.7グラム(1連あたり)と大幅に減少しました。

  次に貝掃除がホタテガイの成長にどのように影響したかをみると、殻高・重量・貝柱重量とも未処理の貝よりも掃除した貝の方の成長が良く、また、7月よりも9月に貝掃除した方が成長が良いという結果が得られました。また9月に掃除した貝の死亡率は9.3パーセントで未処理の14.4パーセントよりもかなり低くなっていました。

  以上述べてきたとおり、貝掃除によって付着物が減少し、ポタテガイの成長促進がみられるなど効果が非常に大きいことが判明しました。今後の研究は、機械で掃除を行った場合に異常貝の出現率が高いため、ホタテガイに悪影響を与えない方法や、付着物除去の適期を解明したいと考えております。
(函館水試 増殖部 西田芳則)
    • 表