水産研究本部

試験研究は今 No.110「渡島西部地区におけるヤリイカ冬期群の標識放流調査について」(1992年7月3日)

渡島西部地区におけるヤリイカ冬季群の標識放流調査について

  渡島西部地区(松前、福島町)におけるヤリイカの漁獲量はここ数年急激に増加し、図-1にもあるように松前町ではここ3年間、500トン前後を維持し、又、福島町では元年、3年と100トンを突破しました。ヤリイカは松前町では3-5月頃に主に火光を利用した敷網によって漁獲される、いわゆる春群が主体ですが、福島町では11-1月の間にイカ釣りで漁獲される各群が主体となっています。そしてここ数年、ヤリイカの漁獲が急激に増加したのは何故なのか、そして今後のヤリイカ資源の見通しは等、最近、浜ではよく話題に上ります。しかし北海道に来遊するヤリイカについては(特に各群については)ほとんど調査されておらず、それに対する適切な回答ができないのが実状です。そこで地区のささやかな取り組みとして、平成2、3年と松前及び福島町でヤリイカ各群を対象に標識放流を行いましたのでその結果を紹介します。

  放流用のヤリイカは松前では5回にわたり262尾を、福島では2回、343尾を主に手釣りにより漁獲し、直ちに標識札をつけ放流しました。放流したヤリイカは、福島では外套長20センチメートル前後のもので、放流前後に行った生物測定の結果、未熟個体が多かったことから、放流されたヤリイカの多くは成熟途上にあったものと思われます。一方、松前のものは福島より幾分大きく、成熟に達したヤリイカが主体だったと思われます。
    • 図1
  再捕状況を図-2に示します。再捕までの日数は、短いもので3日、長いもので59日でしたが、多くは放流1~2カ月後に再捕されました。又、再捕場所については、放流地点より西進あるいは南下して再捕されたものが多く、2年間で再捕された20尾の内、南下して青森県日本海側の鯵ケ沢方面でのもの6尾、同じく青森県海峡部の佐井村、平舘等でのもの7尾(内、1尾はむしろ東進し関根浜で再捕)福島町より西進して松前方面で再捕されたもの5尾、放流地点付近でのもの2尾でありました。そして再捕されたもののうち、少なくとも4尾は成熟した雄であることがわかり、それらは1日当たり1ミリメートル程度成長していました。このように冬季福島町沿岸に来遊するヤリイカの多くは成熟途上の群で来遊後西進あるいは南下する傾向を示しました。

  そしてそれらは、ごく沿岸域の建網や岸壁からの釣りにより再捕され、再捕時、性別のわかったものについてはすべて成熟個体であったことなどにより、放流群は成熟するまで深みを移動回遊あるいは滞留していたものが、十分成熟するとともに交接、産卵のためにごく沿岸域の適当な場所に回遊したのではないかと思われます。

  ところで、ヤリイカ春群の標識放流については、昭和59年と62年に実施され、おおむね北上、一部東進する結果が得られています。各群はこれとほぼ逆の結果を示し、よって、渡島西部地区に来遊するヤリイカ各群は春群とはその由来が違う可能性が高いと思われました。さらに、津軽海峡東口で9-12月頃にヤリイカ幼魚が多獲されるという事実や、福島沖では漁期が進むにつれ漁場が東から西に移っていく状況等より、各群の由来は少なくとも放流地点より東方ではないかと推定されます。

  ヤリイカの漁獲はここ数年、渡島西部地区だけでなく、渡島東部地区さらには後志及び留萌管内においても急激に増加しています。そして日本海側は春群対象、津軽海峡より東側は各群対象に漁獲されているようですが、地区によってはヤリイカに対する期待も大きく、ヤリイカ資源の今後の見通しをつかむためにも、より広い範囲での調査を行う必要があると思います。
(函館水試水産業専門技術員)
    • 図2