水産研究本部

試験研究は今 No.112「養殖ホタテに付着するムラサキイガイについて」(1992年7月17日)

養殖ホタテガイに付着するムラサキイガイについて

  現在、噴火湾では養殖ホタテガイの出荷時に大量に産出する付着物が問題になっています(詳しくは、本誌No.104)。なかでもムラサキイガイが圧倒的に多く、全付着物量の70パーセント以上を占めます。ムラサキイガイは、ヨーロッバでは「ムール貝」と称して食用にされていますが、同時に世界中でカキや真珠の養殖施設や発電所の排水管の付着物として厄介者扱いされています。今回は、このムラサキイガイについてこれまでの調査で明らかになった点についてお話します。

  平成3年に虻田で養殖貝に付着したムラサキイガイの付着時期、成長、付着量等を調べました。その結果、ムラサキイガイの浮遊幼生は、5月から7月中旬にかけてのホタテガイの浮遊幼生調査時のサンブル中に大量にみられました。また、付着板を毎月1~2回交換してムラサキイガイの付着量を調べたところ、噴火湾におけるムラサキイガイの付着時期は5月中旬から7月中旬であり(図1)、そのほかの時期には付着はみられませんでした。このことから、産卵期はホタテガイとほぼ同時期の5月頃と思われます。
    • 図1
  この付着時期を反映して、耳吊り1連当たりの付着数は5月中旬にはわずか37個体でしたが、6月下旬には急激に増加し13万個体も付着していました。これ以降7月中旬までムラサキイガイの付着は続くのですが、脱落する個体の方が多く7月には約3万6,000個体に減少しました。その後も徐々にですが減少していき、12~1月には2万5,000個体になりました。

  次に、ムラサキイガイの成長についてですが、6月にはまだ殻長が035ミリメートル度でほとんど目につかない大きさですが、8月には2.7ミリメートルになります。9月以降成長速度が増し、1月には平均で19ミリメートルに達します。大きい個体では40ミリメートル以上にもなります。

  一方、付着量は春に大量に付着した後に付着数がどんどん減少するために、9月にはまだ570グラム程度ですが、10月以降に付着数の安定と個体の成長によって急激に増加し、1月には16キログラムになります。この量は全付着物量の80パーセントに達しています(図2)。また、上層で付着量が圧倒的に多く、下層ほど少なくなっています。
    • 図2
  ムラサキイガイはホタテガイと同じ植物プランクトンを餌とするため、ホタテガイと餌を競合しホタテガイの成長への影響が考えられます。そこで、ムラサキイガイの付着が終了したと思われる7月下旬~8月に貝殻を掃除して継続養成したところ、掃除済みのホタテガイは未処理のものよりも成長が良いという結果がでました。また、ムラサキイガイ養殖施設の浮力を大幅に減少させるため、養殖管理上必要な浮き玉など、資材費の余計な出資をも伴います。

  このようなことから、ムラサキイガイの付着が終了した時期、まだ付着力が弱い時期にムラサキイガイをホタテガイの成長に悪影響なく洗い落とすことができれば、付着量の極端な減少とホタテガイの成長アップが期待できます。

  現在、道立工業試験場では室蘭地区水産技術普及指導所と連携して付着物除去機器の開発を行っており、7月下旬に公開試験を実施するようです。

  また水試では、平成4年のように春先の水温が低やに推移し春先には、ホタテガイの産卵も遅れたように、ムラサキイガイの産卵、付着時期も遅れる可能性が高くなりますので、ムラサキイガイの付着終了時期が年によってどのくらい変動するのかを調査するとともに、貝掃除をする時期はいつ頃が適しているのかを調べています。(函館水試室蘭支場 蔵田 護)