水産研究本部

試験研究は今 No.115「ペルー産アメリカオオアカイカの加工特性について」(1992年8月28日)

ペルー産アメリカオオアカイカの加工特性について

  アメリカオオアカイカはペルーやメキシコ沖”釣り”により漁獲されるイカで、外観上はアカイカに大変良く似ています。このイカは、昨年のアカイカの不漁と、今後の公海での流し網漁禁止により予想されるアカイカの高騰と原料不足を補うものとして、脚光を浴びるようになりました。

  また、北海道の珍味加工の中心である函館市の平成3年の珍味生産高は、”数量減の金額増”500億円を突破する実績でした。しかし、イカ製品の原料の5割をアカイカに依存しているため、公海流し網漁の禁止は漁業者のみならず、加工業者にとっても大きな打撃となりそうです。

  アカイカとアメリカオオアカイカの胴肉部(外套膜)の測定値は、表1のとおりで、ほとんど同じ大きさのアカイカと比較した場合、平均して身が厚いので胴肉重量がかなり重くなっています。
    • 表1
  これら2種の胴肉部の一般成分や有機酸などについて分析すると(表2)、アメリカオオアカイカはアカイカに比べ、水分が多く、粗タンパクが少ないという結果でした。また、アメリカオオアカイカはペーハーが6.2と低く、VB-N(揮発性塩基窒素量)は、52.4ミリグラム/100グラムと高い値を示しました。これは、胴肉中に含まれる乳酸や塩化アンモニウムの量がアカイカに比較して非常に高いことが要因と考えられます。

  エキスアミノ酸については、総量がアカイカの半分以下でした。その組成については表に示しませんが、アメリカオオアカイカでは、グリシン、アルギニン、プロリンといった呈味に関与するアミノ酸が少なく、このうち特にグリシンで、アカイカの191(ミリグラム/100グラム)に対し35.4(ミリグラム/100グラム)と顕著な差がありました。また、アメリカオオアカイカはシスチン、メチオニンといった含硫アミノ酸が多いことも特徴的でした。
    • 表2
  次に、実際のサキイカの製造工程に沿った温湯剥皮、煮熟後の歩留り、調味の浸透度合いについて検討しました。

  歩留変化については、、表3のように、55度、7分間の剥皮工程ではそれほど差がないのですが、煮熟工程後では重量減少率、縦の収縮率がアメリカオオアカイカで非常に大きく、歩留りはアカイカに比べ悪いことがわかります。

  一次調味の浸透について、剥皮、煮熟、流水冷却、水切り後の肉重量に対し、砂糖6パーセント、ソルビット2パーセント、ステビア0.02パーセント、グルタミン酸ナトリウム0.2パーセント、食塩5パーセントの粉体調味を行い、10度での塩分と糖分の浸透度合いを調べました。通常、サキイカは一次調味を1日間行った後、次の乾燥工程へ進みます。ところが表4のように、アカイカでは調味日数1日目でほぼ塩分、糖分の浸透が完了し、以後変化がありませんが、アメリカオオアカイカでは、1日目の糖分が0.3パーセントとほとんど浸透していないことがわかります。
    • 表3
  したがって、アメリカオオアカイカでサキイカなど調味製品を製造する際には、製品の味、保存性を考慮して従来より調味期間を長くする必要があるでしょう。

  以上、アメリカオオアカイカの成分と加工上の特性についてお知らせしましたが、もっとも大きな問題は、アメリカオオアカイカが持つ酸味、苦み、えぐ味です。これには、乳酸、塩化アンモニウムなどが関与していると思われますので、今後、これらの不要成分の除去について検討したいと考えています。
(函館水試加工研究室 信太茂春)
    • 表4