水産研究本部

試験研究は今 No.122「かご漁業における人工餌料の開発試験」(1992年10月23日)

かご漁業における人工餌料の開発試験

  本道のカニ、エビ類のかご漁業では、経費に占める餌料代の比率が比較的高く、これまで用いられてきているスルメイカやスケトウダラなどの天然餌料は、一般に漁獲量や価格の変動が大きいことから経営安定の面で問題があります。一方、道内では、ホタテガイやイカなどの加工残さいが大量に排出され、その処理に種々の問題が生じてきていますが、これまでかご漁業用餌料としての利用についてはあまり検討されていません。

  そこで、未利用の加工残さいを原料としたかご漁業用人工餌料の開発に向けた予備試験として、ホタテガイのウロ(中腸腺)を用いた人工餌料の調製と、それを用いたケガニかごの漁獲試験を行いましたのでご紹介します。

材料と方法

1:人工餌料の調製法
  人工餌料の海中での形態保持を図るため、細切したホタテガイのウロに大豆脱脂タンバク質を混合し、エクストルーダと呼ばれる食品用加工機械を用いて幅3センチメートル厚さ3ミリメートルほどのベルト状に成形しました。
2:漁獲試験
  1991年7月に網走支庁管内雄武町沖水深95~96メートルの地点で、網目寸法61ミリメートル(2.0寸)のケガニかご50個により、冷凍のスケトウダラを対照として漁獲試験を行いました。餌の量は、人工餌料が1かご当り約50グラム、スケトウダラが1かご当り約120グラムとし、かごを1昼夜設置した後、引き揚げ、漁獲尾数及び漁獲物の性別と甲長を調べました。

試験結果

  漁獲試験の結果は、人工餌料では77尾、天然餌料のスケトウダラでは240尾のケガニが漁獲されましたが、両者ともすべて雄でした。このほか、人工餌料のかごでは天然餌料のかごと同様に、ヨコスジカジカ、ホッケなど魚類も漁獲されました。人工餌料で漁獲されたケガニの平均甲長は76.5ミリメートル、天然餌料では75.9ミリメートルであり、統計学的検定でも差は認められませんでした。

  漁獲試験は1回だけであり、しかも使用した餌の量が、人工餌料と天然餌料で異なるため、両者の漁獲効率を比較できる段階にはありませんが、今回調製した人工餌料がケガニに対して誘集効果を持つことがほぼ明らかとなりました。

  今後、漁獲対象をホッカイエビ、ウニなどにも広げ、ホタテガイのウロ、イカのゴロからの人工餌料の開発試験を継続する予定です。
(網走水試 紋別支場 野俣洋)

北のさかなシリーズ-策2回 ハナサキガニ-

『ハナサキガニはサウスポー?』
  ケガニやズワイガニなどの「はさみ」と腕は、左右ほほ同じ大きさですが、ハナサキガニでは、右が大きく、左が小さいのが普通です。

  根室沖で、ダイバーによる自然界におけるハナサキガニの観察を行ったことがありました。そのときのビデオ記録を見ていて、おもしろいことに気がつきました。水深10メートル程の岩礁に群れているハナサキガニたちは、盛んに岩の付着物をはさみでちぎっては口に運んでいました。ところがよく見ると、どのハナサキガニも、主に使っているのは小さい方の左のはさみで、右のはさみはほとんど動かしていません。

  その後、ハナサキガニの左右のはさみの使い分けについて、詳しい観察をしないままでいますが、ハナサキガニは、ふだんは小回りのきく左を使い、大きな右は重すぎるため、威かくや求愛など、見せるためだけにしか使わないのかも知れません。

『憂うつなハナサキガニ』
  雑誌や観光パンフレットなどのハナサキガニは、普通全身真っ赤です。事実、ゆでたハナサキガニは、腹側が白いのを除げば、全身真っ赤(朱色)です。

  しかし、生の状態では、全体的にはやや紫がかった暗褐色をしています。これに熱が加わると鮮やかな朱色に変色するのです。

  しかし、あるとき水産試験場に持ち込まれたハナサキガニは、なんと真っ青でした。それまで、部分的に褐色の残った青いハナサキガニは見たことがありましたが、そのカニは腹部などを除き、見事に青で、ゆでたハナサキガニの赤い部分をすべて青にした状態でした。

  甲殻類に熱を加えると、赤くなるのは、クルスタセオルビンという青系統の色素が、熱によってチアノクルスタリンという赤い色素に変わるためだそうです。ちなみに、その青いハナサキガニの一部に熱湯をかけてみたとごろ、熱湯をかけた部分は鮮やかな朱色に変色しました。これらのことから、生きたハナサキガニは、本来この青を下地として持っていて、その他の色素が加わって褐色に見えるのだと考えられます。

  甲らの色素が、なぜ青い色だけを残して無くなってしまったのかは分かりませんが、その青いハナサキガニは、きっと仲間たちから白い目で見られ、さぞブルーな日々を送っていたことでしょう。
(網走水試 漁業資源部 鳥澤雅)
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