水産研究本部

試験研究は今 No.125「シシャモの降海仔魚調査」(1992年11月13日)

シシャモの降海仔魚調査

  胆振、日高海域のシシャモは非常に減少し、平成3年からは自主休漁するという事態にいたりました。これらの資源を回復させるために、水産孵化場、水産試験場、水産技術普及指導所と両海域の協議会は種々の調査試験を行っており、この調査もその一環のものです。

  平成3年秋、減少したシシャモ資源を、回復させようと胆振管内のシシャモ漁業振興協議会は自主的に休漁する事を決定しました。その結果、シシャモの母川である鵡川には大量のシシャモが遡上し、産卵しました。毎年産卵数の調査を行っている北海道栽培漁業振興公社の調査では平成2年度の産卵密度の実に40倍の密度を示しました。しかし、シシャモの母川である鵡川がすでに産卵場としての機能を失っているために資源が減少してきたという意見もあり、もしそうであるとすれば、このたくさん産みつけられた卵は生まれる前に死んでしまうことになります。そこで、この卵が生まれてシシャモとなって無事に海に降りていくことを確認する必要があるのです。

  生まれてすぐのシシャモ取るのにはプランクトンを採集するネットを使います。これを使ってどこで取ったらいいのか地元鵡川漁業協同組合と相談の上、鉄橋の上から曳くことになりました。もちろん、汽車の通らない安全な時刻を確認することはいうまでもありません。日別変化を調べるため、4~5月に週2回、午前9時に5分間曳くことにしました。

  また、日周変化を調べるため、4月に3時間おきに24時間採捕を試みました。時期的には4月の中旬頃がいちばん多くなることがわかりました(図-1)。

  また、この数は以前に釧路川で行われた調査(尾身:1977)のデータと比較しても(同じ条件で比較すると釧路ではピークで約300尾)少なくなく、釧路海域の漁獲量が1,000トン程度(鵡川では約150トン)であることを考えると非常に多くのシシャモが生まれて海に下ったものと考えられました。しかし、資源の回復についてはこの調査結果からだけではなく、海面の調査結果もあわせて慎重に判断しなければなりません。
    • 図1
    • 図2

  更に興味深いことに、1日3時間おきにネットを曳いた調査結果では日中は少なく、夕方から増え始めて夜間に多く下り、夜明まえに特に多いと言う結果がみられました(図-2)。釧路のふ化場での観察結果では、日中、ふ化池で生まれたシシャモはそのままふ化池の池尻に多くとどまるので夕方には非常に多くなります。ところが、朝にはまったくいなくなってしまうということを考えると生まれたぱかりのあの糸屑のようなシシャモが海に降りる時を自ら選んでいると言う可能性が相想されます。これがもっとも弱い存在である生まれたぱかりのシシャモのささやかな自己防衛の手段であるとしたら自然の巧妙な仕組みに驚嘆笹せざるを得ません。

  この調査は今年始まったぱかりで胆振日高地方のシシャモ資源の回復にどんな役割を担えるのかと言う点では未知数の部分があります。しかし、土砂やゴミの中から拾いだした「シシャモのコッコ」を私の周りで興味深げにながめていた漁業者の方々の姿を見ると海でとるシシャモ以外のことを知ってもらい、我々の仕'事をより理解してもらうことができると思うと心強い限りです。

  最後に春の融雪増水の中、砂や泥が詰まって重たくなったプランクトンネットをともに曳いていただいた鵡川漁業協同組合の職員の方々にお礼申し上げます。(水産孵化場 シシャモプロジェクトチーム)