水産研究本部

試験研究は今 No.129「ヤマトシジミの再生産と増殖方法について教えて下さい。」(1992年12月11日)

Q&A? ヤマトシジミの再生産と増殖方法について教えて下さい。

  ヤマトシジミは日本全域、朝鮮、樺太に分布する二枚貝で、主として河口や汽水域に生息しています。北海道に産するシジミはすべてヤマトシジミで、漁獲量はここ数年1,000トン余りで、網走川、天塩(パンケ沼と天塩川)、風連湖などで漁獲されています。

1.再生産について

  ヤマトシジミは雌雄異体で、殻を開くと、成体では背面中央から足基部にかけての内臓嚢の部分が雄は淡黄色、雌は灰黒色となっており、この違いにより雌雄の判別が可能です。生殖巣は内臓嚢を覆うように発達し、薄く切って染めてみますと、たくさんの小胞の内壁に生殖細胞がみられます。網走湖ではヤマトシジミの生殖細胞の性分化は殻長10ミリメートル位から進み、ほとんどの個体は満3年の殻長15ミリメートルで成熟に達します。成熟卵と精子は6月から7月にかけてみられ、小胞内は卵及び精子で充満します(図1)。産卵は7月中旬から始まり、8月が盛期で、9月下句まで続きます。

  放出された卵と精子は水中で受精し、その後は一般の海産二枚貝の卵と同様な胚形成が進み、受精後1日で、初期D型幼生となって浮遊します。この時期に一定量(0.5メートル?)以上の水をプランクトンネット(xx13)でろ過するとヤマトシジミ浮遊幼生が出現していれば採集できます。ヤマトシジミ浮遊幼生の形態は図2に示すように、丸みのある卵形で、殻頂部は低く直線状です。このような特徴を示すのは殻長120?130ミクロンからです。出現密度は多くて網走湖では4,120個体/立方メートル、猿払村猿骨沼では1,926個体/0.5立方メートルです。浮遊期間はホタテガイなど他の二枚貝と比べ極端に短く水温21?22度では受精後5日で殻長180ミクロンの殻頂期に達し、このくらいの大きさになると遊泳器官である面盤が消失し、底生生活に入ります。

  底生に移行した初期稚貝(殻長約1.5ミリメートル)には殻の表面に短い剛毛がまばらに生えています。またこの時期の稚貝は足糸で一時砂粒などに付しています。殻長15ミリメートル以下の稚貝は、環境の良好な場所では1,000個体/立方メートル以上出現します。
    • 図1
    • 図2

2.増殖方法

1:移殖放流
  シジミの移殖放流は、従来生息していなかった場所や漁獲しやすい場所へ移殖したり、再生産を目的に種苗を放流するというもので、古くから一般的に行われています。

  種苗放流に際しての留意事項について述べてみます。
  1. シジミは生息場所により汽水に対する順応性が異なりますので、種苗は放流先の塩分と似かよった場所で生活している丈夫なものを選びます。
  2. ヤマトシジミの生息に適した塩分濃度は3.5?10.5パーミル、生息に適さない低塩分及び高塩分限界はそれぞれ0.3パーミル及び21パーミルですので、この条件に合った放流場所を選びます。
  3. 放流事所は底質環境の良い水深2メートル以浅の砂質を主とする場所を選び、底質環境が悪い場合は3)で述べる漁場改良をあらかじめ行う必要があります。
  4. 放流時期は気温の上昇しない日を選び強風により吹き寄せられ高密度になるのを避けるため穏やかな日に放流します。
  5. 放流密度は高くならないように500グラム/平方メートル以下とし均一になるように放流します。
2:種苗の確保
  種苗放流を行うには、種苗の確保が必要となります。天然では稚貝が大量に発生することがあり、このような時には発生した稚貝を採取し、種苗とすることが出来ます。しかし、ヤマトシジミは他の二枚貝と同様に毎年天然発生が期待できるわけではありません。そこで、島根県水試では天然採苗試験を宍道湖で行い、採苗器1袋当たり1万個の採苗が期待できるとしています。今後、中間育成を含め種苗生産に向けて総合的な技術開発が必要と思われます。
3:漁場改良
  シジミの生息している底質の環境改善を図る方法として、耕うんと客土があります。耕うんはジョレンなどの漁具を使って底土を掘り返すもので、未分解の有機物が酸化されるとともに、底土は軟らかくなり、シジミの潜入が容易になります。客土は底質がシジミの生息に適さない場合に行うもので、その場所の底質と異なった砂、貝殻などを他から持ってきて入れます。
4:資源管理
  資源管理の方法は漁業規制を行って漁獲強度を抑えるとともに、資源量調査によって適正な漁獲を行うことにより、資源の維持を図ることが出来ます。漁業規制には禁漁期、禁漁区の設定、1日当たりの漁獲量の制限や殻長制限があります。資源量調査による許容漁獲量として、資源量の1割が一つの目安になります。(稚内水試増殖部 丸 邦義)