水産研究本部

試験研究は今 No.140「平成5年度水産試験研究事業紹介-2」(1993年4月9日)

平成5年度水産試験研究事業紹介-2

  今回は、水産孵化場で平成5年度から新たに開始する試験研究の内容についてご紹介します。

1.池産サクラマス回帰率向上試験

  日本海地域のサクラマスの増大を図るため、水産孵化場では、昭和46年度より、種苗の大量生産が可能な「池産サクラマス?池飼いで育てた親魚から採卵し、それをまた池中養成するサイクルで生産されるサクラマス」の種苗生産技術及び放流技術の開発に取り組んできました。

  しかし、これまで思うような回帰率が得られなかったことから、その原因の解明を行い、その結果、「日本海地域への回帰能力を強く持っている親魚の導入」、「放流技術の開発」、「0+スモルト放流技術の開発」などを追加して実施してきました。

  このうち、「0+スモルト放流技術」については、親魚に当てる光の周期を人工的に調節して産卵時期を早めるとともに、得られた稚魚の飼育水温を調節することなどにより、スモルトになるまでの期間を大幅に短縮し、産卵の翌年の春に、海水への適応力を付けた上で、直接海に放流しようとするものです。

  平成5年度からは、これらに加え、「0+スモルト放流技術」の効果を確認するため、新たな試験を実施することにしています。

  放流効果の確認は、放流稚魚に標識を付け、それを再捕することにより行いますが、これまで、サケ・マス稚魚の標識については「鰭切除法」が用いられてきています。

  これは、「脂鰭」などを切除して標識とする方法ですが、一度に大量の魚を処理するのが困難なため、多くの稚魚に標識を付けることができないことや、切除できる部分が限られているため、他県で同じく鰭切除標識して放流したものとの区別が困難となるなどの大きな欠点があります。

  このため、「耳石蛍光標識法」と呼ばれる、近年開発された標識方法を用いて、放流する大量の「0+スモルト」稚魚に標識を付けようというものです。

  この手法は、「アリザニン・コンプレクソン」という薬品に発眼卵を漬けることにより、「耳石」を染色するものです。

  これにより染められた耳石は、再捕した魚から取り出して「蛍光顕微鏡」で観察すれば簡単に確認できますし、また、魚の一生を通じて消えることはありません。

  更に、これで染色する場合には、発眼卵を薬液に短時間漬けるだけで良いことから、一度に大量の稚魚に標識を付けることができます。

  これにより標識をつけた稚魚を大量に放流するとともに、回帰してきた魚を確認するために、各地の市場に水揚げされるサクラマスにどの程度標識が付けられたものが含まれているかを、各地の水産技術普及指導所などの協力を得ながら徹底的に調査していくことにしています。

  このような、新しい標識法の導入及び市場調査の徹底により、回帰率の確認を行うことを通じて、「0+スモルト放流技術」を確立し、サクラマス資源の増大に努めていきたいと考えています。

2.希少種保護増養殖試験

イトウ
  近年、環境問題に関する関心が高まってきていますが、これに関連して、自然界における動植物の保護についてもその必要性が叫ばれています。

  環境庁では、絶滅の恐れのある動植物について、「レッドデータブック」として取り纏めめていますが、その中で、本道に生息する魚類については、イトウが「危急種(絶滅の危険が増大している種)」として、また、オショロコマは「希少種(存続基盤が脆弱な種)」としてそれぞれ指定されています。

  このため、人為的な手段により、自然界においてこれらの魚種の生息数を増大させていく対策が求められています。

  このうちイトウについては、水産孵化場において、人工ふ化技術の開発が進められており、これについてはほぼ確立の目途が立ってきていますが、これを自然界に放流した場合の効果などについては検証されていません。

  また、オショロコマについては、然別湖において資源減少が著しいため、人工ふ化放流が行われていますが、資源の回復には至っていません。

  このため、本研究では、放流用種苗を安定的に生産するための技術開発を行うとともに、むやみに放流すればかえって生態系に悪影響を及ぼす恐れもあることから、堰堤等で仕切られたモデル水域を選んで放流モデル水域とし、その場における種間関係等を把握して生態系への影響度合いを検証していきます。

  また、幾通りかの時期、密度、サイズでの放流試験を行い、成長度合、捕食等を追跡調査して、どのような放流方法が資源増大の上で最も効果的かを確認することにしています。

  更に、放流河川に自然に生息しているイトウなどと、人工ふ化放流したものとの遺伝的な性質が異なっている場合には、競合などにより、かえって悪影響を及ぼすことも懸念されることから、遺伝的特性を事前に把握しておくことも必要です。

  このような調査研究の成果の活用により、多くの河川にイトウなどの姿が見えるようになることが期待されます。
(水産部漁政課研究企画係)