水産研究本部

試験研究は今 No.144「ホタテガイの天然採苗今昔」(1993年5月21日)

水試よもやま話 ホタテガイの天然採苗今昔

  北海道におけるホタテガイの天然採苗は昭和9年にサロマ湖で木下虎一郎博士(後に北水研増殖部長)が採苗試験を行ったのが最初で、昭和11年から事業として行われ、サロマ湖が全道へのホタテガイ種苗の供給地としての役割を果たして来ました。私が北水試網走支場(現網走水試)に勤務した昭和38年当時は、サロマ湖では採苗施設に“いかだ”が使われ、採苗器として約1.5メートルの針金にホタテ貝殻を80?100枚数珠つなぎしたものをいかだ1台に210連垂下していました。採苗成績は年変動が著しく、良い年で、いかだ1台当たり90万個体、悪い年では貝殻にはほとんど付着がみられず、いかだ1台当たり800個体でした。採苗成績の年変動が激しかった原因として、採苗場がサロマ別川に近かったため、大雨の時には流出する泥土により採苗器が汚れ、稚貝が付着しづらかったこと、採苗施設がカキ養殖に使われていた“いかだ”式であったため、波浪の抵抗を受けやすく、時化の時には付着した稚貝が脱落したことが考えられます。

  採苗の予報・指導は現在、各地区の水産技術普及指導所が行っていますが、当時サロマ湖では水試が中心となって進められていました。調査は・天然・養殖貝の産卵生態から始まって浮遊幼生の分布動態、付着稚貝数の変動要因などについて行われ・調査結果は採苗予報に生かされ、予報の精度が向上するようになりました。これらの調査で記憶に真新しいのは、3時間おきの昼夜による浮遊幼生の垂直分布調査によって、ホタテガイ浮遊幼生は夜間に一時表層近くに分布しますが、それ以外の時間は下層にとどまっていることが分かったことでした。今、思いますと当時の貝殻の採苗器では下層まで垂下できなかったので、下層にいる浮遊幼生を採苗できず、わずかに表層近くにいる幼生を採苗していたので極めて効率が悪かったわけです。

  生態調査のほかに、より効率的な採苗器を求めて、しゅろ皮、ハイゼックスフィルム・古網・さらにこれらをかごに入れたものなど色々と試験を行いました。その結果、種々の付着器材をかごの中にしわになるように入れたものに稚貝が多く付着し、下層ほど多い傾向がみられました。そこで、採苗器はこの方式に変えられましたが、稚貝の脱落を止めることができませんでした。脱落防止策として、脱落する前に細かい網袋でかごを覆うことを考えましたが、作業に多大の労力を要するため、実行に移されませんでした。その後、昭和39年に陸奥湾の漁業者の工藤豊作氏によって杉の葉にタマネギ袋をかぶせる形式の画期的な採苗器が考案されました。当時はこのような採苗器を思いつかず、まさに発想の転換が必要だったわけです。このタマネギ袋式の採苗器は軽くて、扱いやすく、稚貝の付着が良く、稚貝が脱落しづらいので、昭和40年以降またたくまに普及し、これを基本としたネトロンネットが現在広く使われています。また、採苗施設も波浪抵抗の少ない延縄式のものに改良され、採苗成績は飛躍的に向上しました。サロマ湖で培われた採苗技術は、その後、能取湖、外海にまで広げられ、ほぼ全道各地で天然採苗が出来るようになりました。

  このように採苗技術は時代とともに進歩し、今後も発展し続けるでしょうが、進歩の陰には常に先人の並々ならぬ苦労があったことを、今一度思い起こす必要があるように思います。
(稚内水試増殖部 丸 邦義)

トピックス

子供水産教室でヒラメ授業を実施?余市沢町小学校 -科学技術週間関連行事-

  去る4月14日(水曜日)、中央水試では、余市町立沢町小学校で子供水産教室を開講いたしました。これは、科学技術週間の関連行事として行ったもので、子供達に科学技術に対する興味と理解を深めてもらおうと平成2年から町内の小学校で実施しているものです。今年は、4年生2クラス(67入)の児童を対象にし、「ヒラメのおはなし」と題して授業を行いました。先生役は、漁業資源部の富永修研究員が勤めました。なお、児童の中には、水試職員のご子息(?)も数名含まれていました。

  授業は、ヒラメの誕生(種苗生産)のお話から始まり、成長、中間育成、放流までの一連の過程を、OHPを使用しながら分かりやすくお話しました。

  また、余市の前浜でとれた稚魚のサンプルを持参し、見てもらいました。そして、これらの稚魚は、浜中町の海水浴場の近くに生息していたものを採集したものであることを説明し、魚のすみかである海を汚さないよう、みんなで海をきれいにしましょうとアピールしました。

  この後、児童からは、「ヒラメとカレイの違いは何ですか?」とか「天然と人工の違いはどこですか?」といった質問が出され、富永研究員は、一人一人に丁寧に答えていきました。
(中央水試企画情報室情報課)
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