水産研究本部

試験研究は今 No.403「藻場を作って魚を増やそう!」(1999年11月5日)

藻場を作って魚を増やそう!

はじめに

  北海道では平成10年度から5カ年計画でマリノフォーラム21の事業を受けて、これまで開発の難しいとされてきた砂浜域の砕波帯域での藻場造成を目的とした試験事業に官民一体で取り組んでいます。北海道ではコンブ類が主に藻場造成の対象になっていましたが、本事業ではホソメコンブの他にホンダワラの仲間のフシスジモクという海藻を用いて藻場造成に取り組んでいます。フシスジモクは寿命が数年と長く、寿命が2年程度のコンブ類よりも藻場造成に適していると考えられ、今回の事業で対象種の一つとして検討することになりました。函館水産試験場では一連の藻場造成事業のうち、フシスジモクの種苗生産から中間育成の技術化と海域に適した基質の選定などの課題を担当しています。

フシスジモクの種苗生産

  フシスジモク(写真1)はコンブ類と異なり卵で直接増えるという生殖の様式を持っています。このため種苗を作るにはまず母藻から卵を取り出すところからはじまります。今年度の採卵は直接卵のついている部分からそぎ取って行いました。大きさ200ミクロンほどの卵をコンクリート板などの基質に付着させて生長させると写真2のような幼体に生長します。
    • 写真1
    • 写真2
  今年度は6月19日に採卵し、2カ月で約 3ミリメートルほどに生長しました(図1)。この間海水の交換や基質上に繁茂する珪藻類を定期的に手作業で除去しました。本事業では基質として18×18センチメートルのコンクリート板の他、多孔質のコンクリート、ナイロンを植え付けた植毛板の3種類を50枚ずつ用いました。その結果植毛板を用いると採卵作業が容易にでき、最終的な種苗の密度も高くすることができました(図2)。
  これらフシスジモクの着いた基質は、9月中旬に江差町の沿岸域に水深別に設置した試験礁にボルトで固定されました。沖出し以降最も問題になるのは波浪や潮流、漂砂等の影響によって起こるフシスジモクの減耗です。この減耗を減らすことが藻場造成の成否を決める鍵となっています。これまでの知見では成体に生長するまでに99パーセント以上が減耗して無くなることが知られています。

  今年度試験の沖出しの結果がわかるのはこれからです。来年度以降の種苗生産では今年度の結果を踏まえ、よりフシスジモクに適した光や温度条件の検討、海域条件に適した種苗の大きさや基質の検討を行おうと考えています。

おわりに

  北海道におけるホンダワラ類の藻場はコンブ類のように人間が直接利用することができない上、ウニやアワビなども好んで食べないため、漁場としての利用価値が低いように思われがちです。しかし本州ではホンダワラ類の藻場は水産上重要な魚介類の産卵場や稚魚の生育場として重要であるとされています。藻場は魚類の棲息場としての機能を持つだけでなく、藻場に棲息する多数の微少な甲殻類や多毛類などにより餌場としての機能も持っているからです。

  ホンダワラ類の藻場の動物相などの知見が集積している本州に比べると、北海道では藻場の有効性や機能に関する知見がまだあまりありません。今後は藻場の造成に関する知見だけでなく機能面にも注目した研究調査が必要になると思います。
(函館水試資源増殖部 秋野秀樹)