水産研究本部

試験研究は今 No.407「紫外線・酸性雪そしてさけの性比」(1999年12月3日)

紫外線・酸性雪そしてさけの性比

  「オゾンホール」と言う言葉を一度は耳にしたことがあると思います。私たちの住む地球の上空30キロメートル付近には、オゾン層と呼ばれるオゾン(O3)濃度の濃い層がぐるりと地球を取り巻いており、これに遮られて太陽からの光のうち波長が短く有害な紫外線は、地表面にはほとんど到達しないとされていました。しかし最近になって、冷蔵庫やエアコンの冷媒として使用されているフロンガスなどによってこのオゾン層の一部が破壊されて穴が開いたような状態、つまり「オゾンホール」が発見され、その拡大が報じられるようになりました。これは有害紫外線の地表面への到達を意味することから、生物への影響が懸念されるようになっています。

  図1に私達が観測した恵庭市での太陽紫外線放射強度の年変化を示しました。波長400ナノメートル以下の光である紫外線は波長によって次の三つの領域に分類されています。
図1



波長320~400ナノメートルのUVA
波長280~320ナノメートルのUVB
波長190~280ナノメートルのUVC
  最もエネルギーに富み生物への影響が大きいとされるUVCについては、従来オゾン層によって完全に遮られて、地表面には全く到達しないとされていたにもかかわらず、今回このUVCが極めて強い強度で観測され、同時に冬季は夏季の2倍ほどに強くなることが観測されました。

  次に「酸性雨」についてお話しましょう。一般にはペーハー5.6以下の酸性度の強い雨のことを「酸性雨」と呼んでいます。図2は恵庭市における酸性雨の観測結果です。酸性雨は一年を通じかなり頻繁に降っており、ペーハーが4を下回ることもあります。さらに冬季に降る雪は常に酸性度の強い酸性雪です。この酸性度合いは図3に示したとおり、雨に含まれる硝酸態窒素量に強く関係しており、冬季の酸性雪中の硝酸態窒素量は極めて多いことが観測されています。これら酸性雨(酸性雪)の席因となる硝酸の形成には先ほど述べた紫外線が重要な役割を果たしていることが明らかになっており、強い酸性雪の形成には冬季UVC放射の増大が関係している可能性が考えられます。
    • 図2
    • 図3
  増大する紫外線放射量、そして強い酸性雪と役者がそろったところで、その生物に対する影響に関する実験結果を紹介しましょう。

  酸性雪と同程度の硝酸イオン濃度となるように硝酸ナトリウム水溶液(10ppm)を滴下・混合した流水飼育水に紫外線(UVC)を照射し、その飼育水(ペーハー7前後)を使ってサケ及びサクラマスの受精卵を稚魚の浮上期まで長期飼育し、その後さらに通常水で1グラム程度まで継続飼育した稚魚の性比を、卵巣や精巣の有無によって調べました。結果は図4のとおりで、サケ・サクラマスともに硝酸イオンだけを添加した群や何も処理しなかった群の性比(♂/♀)が1強であるのに対し、硝酸イオンの存在下で紫外線を照射した群の性比は0.7弱と、明らかに雌に偏る性比を示しました。
    • 図4
  サケ・マスの仲間の性の決定は普通雌雄で異なる遺伝子型の発見によって決定され、その性比は通常オス・メス1:1になっています。しかし発生のある時期に性ホルモンを投与するなどによって、遺伝的性とは異なる性に変換する事が可能で、養殖魚の性比のコントロールに使われています。

  今回見られた性比の違いについては実験に用いた供試魚の少なさや性による生残率の違いなど、今後検討しなければならない多くの課題が残されていますが、紫外線と硝酸イオンの複合的影響による遺伝的オスのメスへの性転換の可能性も考えられ、融雪期の地下水や河川水を飼育用水とするサケ稚魚への酸性雪と紫外線の複合的影響が懸念されています。
(水産孵化場・病理環境部)