水産研究本部

試験研究は今 No.409「養殖用の新しいアワビの品種を作る試みについて」(1999年12月17日)

養殖用の新しいアワビの品種を作る試みについて

  寿司ネタの代表的な貝といえばアワビを思い浮かべる人も多いでしょう。アワビの仲間には暖かい海に棲むものが多く、北海道で漁獲されているエゾアワビは日本で最も寒いところに棲むアワビです。

  北海道のアワビ漁業の中心となっている日本海側では、漁業者の高齢化にともない、比較的労力が少なく安定して収入が得られる養殖に期待が寄せられています。エゾアワビは単価が高く、比較的狭いところで飼育できる反面、低水温期に死にやすく成長も鈍ることが養殖を行う上でネックになります。

  そこで、エゾアワビよりも寒いところに棲んでいる他のアワビとかけ合わせる「育種技術」を用いて、養殖しやすい品種を作ろうということになりました。農業試験揚が「きらら397」という北海道の気候に適した米を作ったように、アワビでも北海道の気候に適した品種を作ろうというのです。

  そこで世界で最も北に分布するカムチャッカアワビに白羽の矢が立てられました。このアワビは北緯27.5度、メキシコのバハカリフォルニアから北緯58度、アラスカ州シトカまでの広い範囲に分布し、高水温には弱いものの、0.5度の水温までなら耐えられるという種類です(図1)。
    • 図1
      図1 エゾアワビ(左)とカムチャッカアワビ(右)の殻
  こうした品種改良への取り組みは以前からも行ってきましたが、平成9年度からは中央水産試験場と共同で行つています*。

  通常種類が違う生物同士は交配できないものなのですが、非常に濃い精子(種苗生産施設などで用いている濃度の10~100倍)をかけることで、カムチャッカアワビとエゾアワビの雑種(交雑群といいます)ができることがわかりました。

  こうして作った交雑群をさらにエゾアワビやカムチャッカアワビとかけ合わせて、どのような組み合せで成長や生き残りのよい品種ができるのかを試験中です。

  現在までに作ることができた交雑群は、図2に示した7つです。この試験はまだまだ先の長い事業です。こうしていろいろな組み合わせで作った交雑群が結局は全く養殖に向かないということもあり得ます。図3は交雑群同士やエゾアワビとのかけ合わせでできた種苗の成長を比較したものです。10月中旬から11月下旬までの飼育では(水温は17.7度~11.8度まで毎日少しずつ下がっています)エゾアワビに劣っていました。
    • 図2
    • 図3
  今後もこうした試験を繰り返しながら養殖用の品種を作る努力を続けていきたいと思っています。
  私の「磯のアワビの片思い」ならぬ「成長のよいアワビへの片思い」はまだまだ続きそうです。

*)この事業は水産庁農林水産技術会議連携開発研究「水産生物育種の効率化基確技術の開発」の一環として行いました。
注)カムチャツカアワビの導入に当たっては、疾病などを持ち込まぬよう十分に留意しました。

(栽培漁業総合センター 酒井勇一)