水産研究本部

試験研究は今 No.415「寄りクジラ」(2000年2月25日)

「寄りクジラ」

  日本各地の沿岸ではクジラが浜に漂着する、いわゆる「寄りクジラ」が年間100件ほども報告されています。ほぼ、3、4日に1回の割合で日本のどこかにクジラが打ち上げられているのです。これまで確認されたクジラの漂着数は全国で1,264件、その種類数は46にものぼります(1997年8月15日現在)。

  寄りクジラは専門用語で「ストランディング」といい、鯨類(イルカ・クジラ)以外にも、鰭脚類(アザラシ・オットセイ)や海牛類(ジュゴン)などが生死に関わらず海岸に打ち寄せられたり網に入ったり、湾や河口に入り込むことです。

  北海道にも数多くのクジラがうち寄せられており、ミンククジラ、アカボウクジラ、イチョウハクジラ、ネズミイルカなど様々な鯨類が確認されています。

  私の住む道北地方でも、1999年1月から3月までに新聞記事に掲載されただけで5件ありました。地元の漁業者のお話では流氷の勢力の強い年にはよく打ちあがるそうです。

  先日も宗谷岬でミンククジラが漂着し、話題となりました(1月28日付道新)。本種の漂着については、次頁の表にあるとおり8件も記録があるのですが、ほとんどが道東のもので、道北では報告がありませんでした。漂着したミンククジラは体長8.3メートル、体重約4トンと日本沿岸で見られるなかでは大きなものでした(写真)。
  北海道沿岸でのストランディング記録(国立科学博物館のデータベースから抜粋した)  本種は日本近海では太平洋からオホーツク海に分布するグループと、日本海から黄海、東シナ海に分布するグループが存在するとされています。この2つのグループは、春先に網走沖で混在する以外は、日本列島を境に遺伝的な交流が制限されていると考えられていました。今回の事例はちょうど両群の境目付近で確認されたものであり、個体群の構造や移動・分布を知る上で重要な情報が得られます。


  和名 発見数
ヒゲクジラ類 ミンククジラ 8
  コククジラ 1
ハクジラ類 アカボウクジラ 2
  イチョウハクジラ 1
  メソプロドン 2
  シャチ 1
  マッコウクジラ 2
  コビレゴンドウ 1
  ハナゴンドウ 2
  カマイルカ 2
  ネズミイルカ 15
  ベルーガ 2
裂脚類 ラッコ 2
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  このような海棲哺乳類のストランディングを記録することによって、その動物種の分布、回遊、生活史や生息環境の様子など、海棲哺乳類相の研究における重要な情報が得られます。さらに、捕獲が行われていないような種の場合には、分布や生態に関する唯一の情報源となることもあります。オオギハクジラという種は、ストランディングによって初めてその存在が明らかとなったのです。また、海洋環境の指標としても有益な情報を得ることができます。例えば、ストランディング個体の微量元素を分析することにより海洋環境のモニタリングも可能です。胃内容物を調べることによって、意外な魚類の存在が明らかになることもあります。

  なお、クジラの肉というと食べたくなりそうですが、道内では食中毒の事例もあり、病気や寄生虫に感染している可能性もあるので漂着した動物を食べるのは絶対に止めましょう。

海の哺乳類ストランディング・データベース

  国立科学博物館ではデータベースを作成し、いつ・どこでどんなクジラが漂着したか、ホームページ上で公開しています(http://svrsh1.kahaku.go.jp/)。データベースは1986年から日本鯨類研究所で収集したストランディングの情報を集めたものです(1997年8月15日現在)。

  この国立科学博物館の海棲哺乳類情報データベースの一環で、将来的にはデジタルフォトの転送(困難な場合はファックスによる受信)、種の同定の支援、標本所在情報などの機能を準備する計画だそうです。連絡先は次の通りです。

山田 格
国立科学博物館 動物研究部
〒169 東京都新宿区百人町 3-23-1
電話:03-3364-2311
Fax:03-3364-7104
E-mail: yamada@kahaku.go.jp

 
  もし、どこかの海岸でこうした鯨類や鰭脚類を見かけたら、どんな情報でもかまいませんので是非ご連絡下さい。こうした情報を積み重ねることによって重要な資料となるのです。

  最後に、問い合わせや連絡場所については、北海道では支庁や市町村の環境衛生や水産関係の部署、そして漁業協同組合が対応することになっていますのでご連絡をお願いします。 


(稚内水産試験場資源管理部 和田昭彦)
電話:0162-32-7177
E-mail:wadaa@fishexp.pref.hokkaido.jp