水産研究本部

試験研究は今 No.432「ホタテガイの成長特性と適正利用に関する研究」(2000年9月11日)

ホタテガイの成長特性と適正利用に関する研究

資源量推定法の改良についての紹介

  現在、網走水産試験場資源増殖部では「ホタテガイの成長特性と適正利用に関する研究(受託)」を実施しています。実際の調査は昨年から開始され、オホ-ツク海域の常呂沖ホタテガイ輪栽区で平成11年放流貝の追跡調査を継続しています。同じ海域で,同じ放流貝を追跡調査することで、密度、海洋環境と成長の関係を解き明かすことを目標にしています。ここでは、この調査の重要な課題である資源量推定法の改良について紹介します。

水中写真法による資源量推定法の改良

  産業の対象生物の数を推定する方法(個体数推定法)は、水産資源の現状把握にとって、基本的かつ重要な技術です。個体数推定法は、区画法、標識再捕法、除去法、密度指数法の4つに大別され、中でも区画法(密度面積法)による個体数推定は、最も一般的な方法です。ホタテガイ漁場においても資源量推定法として広く応用され、その結果は現場の生産計画に多大な影響を与えます。

  さて、この区画法を実施するためには、対象生物の生息密度の実測値が必要です。そのための密度調査法として、従来はけた網調査により実際の標本を漁獲する、非復元的サンプリングが主流でした。この場合、調査自体が破壊的サンプリングであるために引き起こされる漁場の撹乱や、漁具の漁獲効率、曳網距離のように不確定要素があり、調査の信頼性の検討が困難でした。

  それに代わり、近年、オホ-ツク海沿岸のホタテガイ放流漁場での密度調査法として水中写真法が導入されつつあります。水中写真法は、海底の一定面積を特殊な撮影機材(写真1)による写真撮影を行い、そこに写ったホタテガイを計数し、直接密度デ-タを得る手法です。この方法は漁獲を行わないため、非破壊的であり、復元的サンプリングとして捉えることも可能な優れた方法です。
    • 写真1
      写真1.水中写真撮影装置
  さらに人工衛星を利用した測地技術(GPS)が簡単に利用できるようになり、位置と密度という一組のデ-タセットが容易に入手可能になったわけです。

  しかしながら、いくら高精度のデ-タセットを入手できても、それに適合した個体数推定法を利用しない限り、過去の手法以上の精度を得られるとは限りません。

  そこで空間統計学(Geostatistics)による個体数推定法が登場するわけです。この手法は個体密度の距離による変動を、バリオグラム(variogram)と呼ばれる数式によりモデル化し、それによる重み付けを利用して点もしくは区間の密度推定を行う方法です。言い換えると、距離重み付けから計算される加重平均値として推定密度を計算するわけです。

  これらを実現するためには,事前の分析として地理的距離と密度変動の関係、空間分布(集中分布、ランダム分布、一様分布)の経年変化などの把握が必要となります。実際の調査はやっと2年目にはいったばかりですが、現地の協力のもと、計画は着実に進行しています。

(網走水産試験場 資源増殖部 桒原康裕)