水産研究本部

試験研究は今 No.434「宗谷漁協のホタテ漁場に地蒔き放流されたホタテガイの放射肋数(ほうしゃろくすう) 」(2000年10月11日)

宗谷漁協のホタテ漁場に地蒔き放流されたホタテガイの放射肋数 (ほうしゃろくすう)

  ホタテガイの貝殻表面に波打って、貝殻の中心部から放射状に凹凸の筋が走っている(それを放射肋と呼びます)のは、皆さんご承知のことでしょうが、その放射肋に産地ごとに特徴があることは、意外に知られていないようです。

  全国のホタテ産地ごとの放射肋の違いや噴火湾での移入母貝の変化により肋数が変化したことなどの詳細な話は、最新の「北水試だより」に掲載予定ですので、それを見て頂くことにして、今回は宗谷漁協のホタテ漁場(オホーツク海側)に地蒔き放流された越冬貝の放射肋を調べた結果を、紹介することにします。

肋数の数え方

  ところが、実際に肋数を数える段にとなると、どこをどのように数えたらいいのか難しいことに気づきます。そこで、基準を設けることにして、取り組みました。

  肋の数は、①凹凸のうち突出した凸(肋)の数を数える、②貝殻の中心部分から末端まで連続した肋のみを数える、③途中で2本に分岐し隣接した肋でも、両者がほぼ同じ高さの突起で、明瞭に分離していれば、それぞれを1本として数える、④疑わしい場合は数えず、という基準で各サンプルとも約100個体を調べました。

日本海側では焼尻、富磯からの越冬貝は違った特徴を持っていた!

  宗谷漁組の協力を得て、活力試験に使用された1999年生まれ越冬貝の放射肋数を調べた結果は、表のようにまとめられました。
    • 表
  これでみると、日本海側のホタテガイ種苗生産地からのものでは、焼尻を除き、右殻(白い殻)も左殻(茶色の殻)ともに、平均値で産地間の有意な差異はなく、肋数の範囲もほぼ同じでした。これは、網走水試が取りまとめているホタテガイ浮遊幼生動態調査で、かなり前から確認されてきたように、浮遊幼生が日本海側を北上することに合致した結果です。

  しかし、焼尻が他の地点とは、左右の肋数とも有意に区別される(p>0.05)結果となりました。数えている時のメモには、明瞭な凹凸を持つ貝殻が多く、かつ肋の数も多いことが記してありました。肋数の範囲も多い方へ広がっています。

  その上、宗谷湾富磯で採苗された貝は、日本海側の他産地のそれとは、左右の肋数とも0.5本少ない特徴を持ち、有意に差がありました。肋の凹凸も顕著でなく、ひらべったい感じの貝殻が2割以上を占めていました。

  これらの差異が出た要因については、今のところ分かりません。

羅臼の越冬貝はさらに違った特徴を持っていた!

  日本海沿岸以外の産地である羅臼の特徴は、焼尻とは逆に少なく、右殻の肋数で富磯を除く他の産地とは有意に差がありました。普通、左右の肋数には約1本の差があるのですが、羅臼のは数が少ないだけでなく、右殻と左殻の肋数の平均値にすら、有意差がない特徴を持っていました。その上、他の産地では、左右の肋数が同じである個体は2割前後であったのですが、ここのはそれが4割にも達していました。これらのことを考えれば、羅臼産のホタテガイは独自の貝殻の特徴を持っていると思われます。

  焼尻や富磯、羅臼でみられたような産地による肋数の差に、遺伝的な違いが影響しているのか興味のもたれるところです。現在、それぞれの産地の同じサンプルの貝柱を、アイソザイム分析で遺伝的な差異があるの否かを検討していますので、その結果を得次第、総合的に解析して報告したいと考えています。


(稚内水産試験場資源増殖部 川真田憲治)