水産研究本部

試験研究は今 No.435「増毛沿岸サケ生態調査から、回帰が低い日本海のサケ増殖を考える」(2000年10月25日)

増毛沿岸サケ生態調査から、回帰が低い日本海のサケ増殖を考える!!

  北海道の沿岸にもどってくるサケ(シロサケ、アキアジ)の数が、最近になって減ってきています。つい最近まで右肩上がりで増えつづけていた来遊数は、H7年の5700万尾余りを境にして、H11年には3800万尾になってしまいました。何が原因でこういった現象が起きたのでしょうか? これからもサケ資源は減りつづけるのでしょうか?

  ここで気になる研究結果があります。北太平洋の気象の長期変動とそこで生産されるサケ類(北太平洋5種)の資源量の変化を調べたところ、両者の変化はよく一致しており、最近になって気象変動が低いレベルに変わってきたとする報告です。

  道立水産孵化場は、H4年に一時的に来遊数が減った現象を契機として、サケ幼魚の生き残りと沿岸環境との関係を明らかにする総合的な沿岸生態調査を、H7年から5年計画で他機関と共同して取り組みました。放流後のサケ幼魚の死亡が最も高い時期は、川と沿岸で生活する時期と考えたからです。かつてニシン漁場として有名な留萌沿岸の増毛が、調査海域に選ばれました。この調査は、栄養塩レベルから、幼魚を食べる捕食者レベルまで広い分野を含む初めての試みです。春の沿岸環境と放流時期ついては今田和史さんが、試験研究は今(No.428)でお知らせしているので、ここではサケ幼魚の生き残りに関わる知見に絞ってお話をします。

  私たちはサヨリ2艘曳き網という漁具を利用して、海面から下2メートルの水深にいるサケ幼魚を、放流前3月から放流した後6月までの間一定の方法で採集しました。採集したすべての魚類は、体長測定、胃内容物の分析、標識の有無などを調べました。一方、捕食者を明らかにするために、刺し網やサヨリ網、小型定置網で採集した魚類の胃内容物も調べました。また以前から、サケ幼魚の捕食者として海鳥の存在が注目されていましたが、私たちは、河口周辺に群がるカモメ類によるサケ幼魚の捕食量推定にも取り組みました。これらの詳しい結果については、すでに調査報告書(H7~H11年度 日本海区サケマス回帰率向上対策調査報告書)にまとめられています。

  増毛沿岸調査で得られた、主要な成果は次のとおりです。

1.サケ幼魚は岸から500メートル以内の浅い場所で高密度に分布しながら成長し、尾叉長70ミリメートル、体重3グラムに達した個体(離岸あるいは沖合移動臨界サイズ)から沖に移動することが解りました。沖合い移動は、温暖年では5月中旬で早く、冷涼年は5月下旬から6月上旬に起こりました。

2.サケ幼魚が生活する水温は6度から13度の範囲にあり、13度を越えると沿岸域から見えなくなりました。沿岸域で生活(成長)できる期間が、水温13度で決められることになります。

3.サケ幼魚は、浅い海底に依存する小動物や沿岸性プランクトンを餌として利用しますが、次第に外洋性プランクトンの利用が高まりました。

4.サケ幼魚の他に12種の魚類が採集されましたが、この中でアイナメ幼魚は体サイズや好む環境、利用する餌生物が類似していたことから、両種は潜在的な競争種であるとみなされました。

5.河口域におけるカモメ類(オオセグロカモメ、ウミネコ)のサケ幼魚捕食量は、130万尾余りと推算され、この値は全放流数の10.3パーセントでした。この他に、ウミウとウミアイサが幼魚を捕食しました。海鳥類は、沿岸生活期サケ幼魚の重要な捕食者と言えます。

  これらの知見に基づいて、次のようなサケ増殖技術に関わる改善案が提出されました。留萌支庁管内ではこれら改善策の積極的な取り組みが、関係者の賛成を得て進行中です。

(1)種苗性の高い健康な幼魚を生産すること

(2)好適な沿岸環境時期(増毛では4月下旬から5月末の間)に合わせて放流する

(3)沿岸生活期間を短縮するためにより大型の種苗を放流する

(4)海鳥類の捕食を避けるために夕刻放流する

(5)輸送放流する場合に二次飼育放流を強化する

  貧栄養で高水温の対馬暖流の北上が春に見られる日本海は、サケ幼魚の生き残りにとって厳しい海洋環境にさらされています。サケ資源を安定化するために私たちは、これまでに得た知見を生かすことはもとより、さらに詳しい調査研究が求められています。

(水産孵化場 増毛支場 河村博)