水産研究本部

試験研究は今 No.448「平成12年度十勝・釧路海域におけるハタハタ標識放流調査結果について」(2001年5月11日)

平成12年度 十勝・釧路海域におけるハタハタ標識放流調査結果について

はじめに

  ハタハタは朝鮮半島から沿海州、サハリン、カムチャツカを経て、北米のシトカまでの北太平洋の広範囲に分布し、水深450メートル以浅の大陸棚に生息する冷水性底魚類です。日本近海では特に秋田県がハタハタの産地として有名で、地元の食文化に深く根ざした地位を獲得しており、「秋田といえばハタハタ、ハタハタといえば秋田」と言われている程です。一方、北海道産のハタハタに目を向けると、日本海側では石狩から留萌支庁管内、太平洋側では渡島、胆振、日高、十勝、釧路支庁管内で沖合底曳網によって漁獲されている他、これら管内の一部沿岸では11月中旬から下旬にかけて、産卵のために接岸してくる成魚が刺網や小型定置網などで漁獲されています。中でも「えりも以東海域」の漁獲量は全道の50パーセント以上を占めており、道東の前浜は、北海道のハタハタの重要な産地となっています。道東海域に生息するハタハタは、その産卵場から襟裳群、釧路群、根室群の3系群が存在していると考えられています。また、魚群分布調査等の結果から釧路西部~十勝海域に及ぶ広い範囲を索餌場としていると思われます。しかし産卵場に関する一部の報告を除けば、この海域に生息する系群の分布、移動・回遊等に関する生態的な知見はほとんど得られていません。

  そこで、今回は道東周辺の沿岸および沖合のハタハタの移動経路を把握するために実施した標識放流調査の再捕結果について報告致します。
    • 図1
      図1 十勝・釧路海域におけるハタハタ標識放流調査地点

ハタハタ標識放流調査

  本調査では、系群別の分布・移動や系群間の交流を明らかにすることを目的に、索餌場付近の産卵回遊前の群については、釧路地区・十勝地区水産技術普及指導所、十勝・釧路支庁水産課の協力のもと、2000年9月下旬~10月上旬に釧路市漁業協同組合所属漁場監理船「ゆたか」で、また産卵場付近での産卵群については11月上旬に釧路水試所属調査船「北辰丸」で小型底曳網によって漁獲したものを、標識装着して放流しました。釧路・十勝海域の索餌群について標識放流を行うにあたり、標識放流地点の選定に関しては魚群分布調査の結果に基づき、浜大樹沖(水深55~60メートル)、大津沖(水深46~54メートル)、跡永賀沖(水深41~60メートル)といった分布密度の高い場所を標識放流地点としました。また、産卵群に関する調査地点は沖合底曳網漁業の漁場として利用されており、近くに産卵場があるという条件を満たすことのできる場所という理由で、跡永賀沖の水深97メートル付近の場所を選定しました(図1)。

  放流尾数は浜大樹沖466尾(体長:約105~170ミリメートル)、大津沖174尾、跡永賀沖507尾(約95~130ミリメートル)、北辰丸309尾(約105~135ミリメートル,170~205ミリメートル)です。
    • 図2
      図2 日高・十勝管内におけるハタハタ/b> 標識魚の再捕結果
    • 図3
      図3 釧路管内におけるハタハタ 標識魚の再捕結果
表1 ハタハタ標識放流魚の再捕記録
  再捕日 捕獲水深(m) 捕獲漁具
釧路管内 11/15~11/22 4~12 ハタハタ刺網
十勝管内 10/19~11/07 90 シシャモ桁網
日高管内 11/16~12/05 7~13 ハタハタ刺網

再捕結果

  浜大樹沖放流群の再捕については、28尾(再捕率6.0パーセント)、大津沖放流群は7尾(4.1パーセント)、跡永賀沖放流群は5尾(1.0パーセント)、北辰丸放流群は3尾(1.0パーセント)でした。

  再捕結果(図2,3)から、浜大樹沖で放流した標識魚は襟裳方面、昆布森~厚岸方面で再捕されました。大津沖で放流したものは全て襟裳方面で再捕され、跡永賀で放流したものの多くは厚岸沿岸で再捕されていますが、再捕された中の1尾は遠くはなれた襟裳沿岸で見つかっています。またハタハタは産卵のため沿岸水温が10℃以下になる11月下旬~12月上旬に一挙に沿岸に移動すると言われています。従って、表1の結果から10月中旬~11月上旬のシシャモ桁網による漁獲は索餌回遊しているもので、一方11月下旬~12月上旬の沿岸の刺網での漁獲報告は産卵のため沿岸に接岸しているものである可能性が高いと思われます。図2,3に示されているとおり、各放流場所から離れた昆布森および襟裳のそれぞれの産卵場へ回帰移動をしているものも見られ、改めてその索餌海域が広範囲であることがわかりました。また産卵群であると考えられる11月上旬の昆布森沖合に分布する群は、北辰丸で放流した結果、すべて厚岸沿岸で再捕されました。

  以上、釧路・十勝海域において特にハタハタの分布が高い場所を中心に標識放流を行った結果、9月下旬~10月上旬に広尾沖から昆布森沖に分布していたハタハタは、「昆布森」および「襟裳」とそれぞれ異なる産卵場所で再捕されていることから、当海域では襟裳群および釧路群がかなりの広範囲に混在しながら分布し、産卵期になると各産卵場へ回帰するといった傾向を今後考慮していく上でも貴重な結果といえます。

  これらの分布・移動の関係解明のためには、今後とも標識放流試験を実施し、再捕データの蓄積をしていく必要があります。
(釧路水産試験場 安永倫明、森 泰雄、函館水産試験場室蘭支場 志田 修)
釧路水試では標識放流魚を再捕された方からの連絡をお待ちしております。
リボンタグ
 魚体には「クシロ2000」と印字された黄色(浜大樹沖)、赤色(大津沖)、緑色(跡永賀沖)、白色(北辰丸)の標識(リボンタグ)を装着して放流しました(下図)。発見された方は、釧路水試または、最寄の水産技術普及指導所へご連絡下さい(わかりましたら、1.とれた年月日、2.とった場所、漁具、水深も教えて下さい)。

連絡先 釧路水産試験場 資源管理部(釧路市浜町2-6,TEL 0154-23-6222)
十勝地区水産技術普及指導所(TEL 01558-2-2061)
釧路地区水産技術普及指導所(TEL 0153-52-2003)