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中央水産試験場

シラウオ

シラウオの産卵について

オスの臀鰭鱗(でんきりん)から始まった研究

奇妙な鱗

 シラウオは、幼魚のような体型のまま成熟・産卵し(幼形成熟(ようけいせいじゅく))、一年で寿命を終える魚です。幼魚の特徴として、ほとんど鱗を持ちませんが、なぜかオスの臀鰭(しりびれ)の根元にだけ17枚の鱗が一列に並んでいます(図1)。この鱗は何のためにあるのでしょうか?
    • シラウオの尻鰭鱗の写真

      図1 シラウオのメス(上図の上)とオス(上図の下)の体型とオスの鱗(下図)

 じつは、このオスの鱗は吸盤のような形をしていて、ものに吸着することが出来ます(図2上図)。一方、シラウオのオスの精巣はとても小さいので、一度に持つことのできる精子は多くはありませんこれらのことから、オスは鱗を使ってメスと密着(図2下図)することで、受精の効率を高めているのではないか?と推察されてきました(太田1951、猿渡1994)。
    • シラウオの鱗が吸着する写真

      図2 スライドグラス(上図)とメス(下図)に吸着するオス。

飼育観察

 そして、シラウオのオスとメスを1尾ずつ水槽に入れたところ、オスとメスが密着しながら体を激しく震わせ、産卵しているのが観察され、推察が正しかったことがはっきりと確認されました(図3および動画)。
    • シラウオを飼育した水槽の写真
 また、シラウオは1回の産卵行動で全ての卵を産むのではなく、何度にも分けて徐々に産卵することもわかりました。このような産卵を分割(ぶんかつ)放卵(ほうらん)(井口1996)といいます。
 さらに複数のオスとメスを同じ水槽にいれると、オス同士が互いに牽制したり、メスとペアになるために争ったり、といったいろいろな行動を通してペアの形成と産卵を行っており、産卵のたびに相手を変えていることも明らかとなりました(図4)。
 なお、シラウオを大きな水槽でオス・メスとも複数で飼育した場合には、水槽の底から10〜20 cmの位置で産卵しており、図3でみられた水面での産卵は、水槽が小さかったためと考えられます。
    • シラウオのペアの形成

      図4 シラウオのペアの形成

 その他、シラウオのメスは一度に600〜900個の成熟卵を持ちます。それを先に説明しましたように、一晩で何回もの産卵行動を通して全て産出するのですが、その後約10日間かけて再びお腹が成熟卵で満たされることが観察されました。
 つまりシラウオのメスは徐々に成熟卵でお腹を満たし、それを一晩で産む(ただし分割放卵しながら)という過程を繰り返していることになります。
 観察では、この繰り返し産卵は4回認められました。

研究から得られた情報の資源管理型漁業への利用

 このように、シラウオのオスの奇妙な鱗から始まった研究で、シラウオの産卵について様々なことが分かってきました。そして、これらの情報はシラウオの資源管理に役立ちます。
 例を挙げますと、シラウオは春に産卵のために河口付近に集まったところを漁獲する場合が多い(厚岸湖、石狩川、長良川など)のですが、約10日間隔で何回も産卵を繰り返すという情報から、漁獲する時期を遅くすることで産卵回数を増やし、次の世代を増やすことが可能と考えられます。つまり、十分に産卵させた後で漁獲しようということです。
 また、シラウオの産卵期の漁獲物を調べますと、オスが多かったり、逆にメスが多かったりする場合があります(堀田・田村1954)。シラウオのオスは鱗を使って効率的に受精させていること、そして産卵が一夫一妻型(産卵期を通して特定の相手と産卵を行う)でないことから、オスが少なくても産み出される卵の数にはあまり影響がないと考えられます。つまり、オスが多く漁獲される時期や場所を特定して漁業を行うことで、次の世代を増やすことが可能と考えられます。逆に言えば、産卵するメスをなるべく残そうということです。この時期や場所について、石狩川では産卵期の始め、そして小潮期に河口付近においてオスが多いという傾向が認められています。

最後に

 シラウオに限らず生態的な情報・知見は、資源を維持しながら漁業を行うという資源管理型漁業を実行する上で大切なものです。水産試験場では、今後も資源管理に役立つ生態研究を進めて行きます。

参考文献

  • 太田繁.中海,宍道湖産白魚の第二次性徴並びに魚群系統.水産研究誌 1951; 41: 17-15.
  • 堀田秀之,田村正.シラウオ(Salangichthys microdon BLEEKER)の生態について.北大水産研究彙報 1954; 5(1): 41-46.
  • 猿渡敏郎. シラウオ−汽水域のしたたかな放浪者. 「海と川を回遊する淡水魚」(後藤晃,塚本勝巳,前川光司編)東海大学出版会,東京. 1994; 74-85.
  • 井口恵一朗 .アユの生活史戦略と繁殖.「魚類の繁殖戦略1」(桑村哲生,中嶋康裕編)海游舎,東京.1996; 42-77.
  • 山口幹人.シラウオの飼い方.北水試だより 1996; 35: 7-14.
  • 山口幹人.シラウオ雄の鱗について. 北水試だより 1999; 46: 7-10.
  • 山口幹人,藤岡崇.水槽内で観察されたシラウオの複数回産卵. 北海道立水産試験場研究報告 1999; 54: 9-13.
  • 山口幹人,藤岡崇,猿渡敏郎,大森迪夫.水槽内で観察されたシラウオの産卵行動.日本水産学会誌 2004; 70(5): 699-705.

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