法人本部

チーズ

第13話   チーズを美味しくする少数派微生物 プロピオン酸菌

道総研 食品加工研究センター 川上 誠

  チーズ1.jpg   北海道といえば、皆さんは何をイメージするでしょう?牧場風景や牛乳、乳製品ではないでしょうか?事実、酪農が盛んな北海道は、国内の生乳生産の約半分を占め、品質の高い乳製品を製造しています。特にチーズの製造施設は、大小100ヶ所余りあり、他の都府県にない個性的な製品が数多く作られています。チーズといえば、チーズアイ(眼)と呼ばれる大きな穴のあいたチーズと、そこから顔を出すネズミの姿を連想される方もいらっしゃると思いますが、この穴あきチーズこそ、スイスのエメンタールに代表されるチーズで、これからお話しするプロピオン酸菌の産物なのです。

 

当センターでは、2003(平成15)年に北海道内の生乳などからプロピオン酸菌を分離し、乳製品への利用を検討してきました。プロピオン酸菌は乳酸菌に比べて知名度は低いのですが、われわれの身近に存在し、整腸作用、コレステロール低減、ビタミンの生産など様々な働きをしています。

 

プロピオン酸菌と乳製品をつくる微生物は、とても良好な関係にあります。牛乳の中で乳酸菌は乳酸を作り(乳酸発酵)、プロピオン酸菌は乳酸を食べて速やかに生育します。さらに、プロピオン酸菌にはビフィズス菌を増殖させる効果が認められています。一方が他方に利益を与える生物間の相互作用を片利共生と呼びますが、これらの微生物の関係がこれに当たり、ヨーグルトやチーズの中で良い隣人関係を築くのです。

 

チーズの中でプロピオン酸菌は、ナッツのような特徴的な風味と炭酸ガスによるチーズアイを形成します。プロピオン酸菌が少ないと十分な風味は作られず、逆に多いと異常な膨張を引き起こし、チーズに亀裂を生じさせます。研究の結果、プロピオン酸菌の添加量は、乳酸菌に対して1千分の1から1万分の1程度で十分なことがわかっています。乳酸菌に対して少数派のプロピオン酸菌が、特徴的な風味と外観を作り出しチーズを美味しくするのです。これらの成果はマニュアル化し、技術移転によってプロピオン酸菌を利用したヨーグルト、チーズとして製品化されています。

 

最近、プロピオン酸菌の他にもチーズの味や香りに関与する少数派の微生物の存在が明らかになってきています。高品質な発酵乳製品を開発していくためには、原料となる生乳のほかに、発酵や熟成に関与する微生物の研究が重要であると考えられます。当センターでは現在、道産チーズの品質向上を目指し、これら微生物の研究をさらに進めています。

 

道総研食品加工研究センターホームページはこちらから

 

<参考>

「地域独自スターターを利用したチーズ製造マニュアル」(第2版)

 

  次回は4月の予定です。