農業研究本部

菜豆の生育過程における栄養生理学的試験
第1報 無機成分の吸収について

岩淵 晴郎

北海道立農試集報.6,77-92 (1960)

 菜豆の生育過程を調査し、養分の吸収の状況を把握し、施肥法改善の資にせんとし て栽培面積の最も多い代表的品種である「常富長鶉」、「紅金時」および「大手亡」 の3品種の窒素、燐酸、加里および石灰について検討を行ない、その概要について報 告した。その結果を要約すれば次のとおりである。 

1.菜豆の生育は開花後もなお栄養器官の生育がつづけられ、とくに半蔓性の「大手亡」では子実肥大期にいたるまで栄養器官の生育がみられた。
2.窒素、燐酸、加里および石灰の吸収についてはそれぞれ特徴的な相異があり、窒 素および加里は生育初期より速かに吸収されるが、燐酸は初期吸収は緩慢であり、 大部分は後期に莢において吸収がみられた。これに対して石灰は葉がその大部分 を保有し、しかも葉からの転流は認められず、吸収量は莢伸長期の終わりころか ら子実肥大期にかけてほぼ一定となった。
3.茎葉の窒索、燐酸、加里は莢の吸収がおう盛に始まるころから減少し莢に移行す ると思われるが、この茎葉からの移行率は、茎葉が同化作用の場としてはもちろんのことであるが、穂部に対する養分貯蔵の場として認められている水稲の場合と対比すればかなり低いことが認められた。莢の蓄積量からみれば、茎葉からの 移行量はきわめて少なく莢のこれらの成分の吸収は直接根からの供給に依存する ところ大であろうと考えられる。とくに燐酸は茎葉に対する依存度は低いようで ある。
4.含有率の消長および着莢および落莢状況、落葉などの現象から考察すれば、移行量は少ないが茎葉とくに葉は莢の着生に大きな役割りをもつものと考えられる。
5.これら成分の吸収は加里が最も多く、燐酸の吸収は最も少なかった。石灰は生育中期まで窒素とほぼ同程度の吸収経過を示すが、登熟期にいたり吸収は停止され るので成熟期には窒素より少なかった。
6.10a当りの無機成分吸収量は加里、窒素、石灰が多いが、圃場から持出される量(収奪量)は窒素、加里が多く、施肥量をかなり上廻り天然供給量や根瘤菌による窒素固定、施用した肥料の吸収率など、条件は複雑であるので、これらの施肥 については十分検討されねばならない。また燐酸は生育初期に吸収少なく全吸収量は施用燐酸よりは少ないが、もし燐酸肥料についての従来の考え方が正しいと すれば、吸収された燐酸は土壌燐酸(前作の施用燐酸の残効も含めて)に由来するところが大であろう。石灰については吸収量は多いが大部分が葉に含まれ、したがって落葉によって圃場に還元されるので収奪量は少なかった。
7.供試3品種のうち「常富長鶉」、「紅金時」の2品種は含有率の消長、養分の吸 収はほぼ同様であった。「大手亡」はこれらと大体似た傾向を示すが前記2品種より生育は遅く養分含有率、吸収量の推移など部分的に異なる点が認められた。 すなわち「大手亡」は石灰吸収量多く、窒素も加里と同様に多量に吸収し、また 燐酸の茎葉からの行率もより大であった。


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