農業研究本部

チモシー斑点病とその病原菌 Heterosporium phlei GREGORYについて

佐久間 勉、成田 武四

北海道立農試集報.7,77-90 (1961)

 チモシー斑点病の北海道における分布状況をしめし、その病徴および発生推移を 明らかにした。 本病病原菌Heterosporium phlei GREGORYの形態、培養性質を明らかにした。 H.phlei GREGORYの分生胞子は晴天時の自然病斑上では発見されることがまれで あるが、雨、霧がつづいた多湿な条件のときには病斑上に多数形成される。本菌 の分生胞子が病斑上で鎖生状に形成される例が認められた。 H.phlei GREGORYの菌糸の生育適温は20℃前後、分生胞子の発芽適温は24℃で あったが、2~3℃の低温でも30℃の高温でも生育および発芽することができ る。 培地にブドー糖を加用すると菌の発育は良好となるが分生胞子の形成は不良となる。 本菌はチモシーのみを侵すもので、チモシー以外のイネ科植物12種に接種したが全く発病しなかった。 チモシーの生葉片が越冬したときその葉片の病斑内組織で菌糸が越冬し、翌春病 斑上に分生胞子を形成し第1次伝染源となる。また越冬時積雪下の過湿、低温の条件のもとで、病斑部に形成された肥厚菌叢は煤状に多数の分生胞子を形成する が、この形で越冬し翌春第1次伝染源となる。 罹病植物は飼料価が明瞭に減少していた。 本病の発生は多湿地帯に多いが、これは多湿時に分生胞子の形成がおう盛であることと関連するものとみられる。 施肥の不充分とくに加里欠乏症、マグネシウム、その他の微量要素欠乏症を併発 したものに本病の発生が多く、これら病斑上での胞子形成量が非常に多かった。 なお発病のとくに多いマグネシウムなどの欠乏症を併発したものでは健全なもの に比して、葉内のT-N/SiO2が大であった。砂耕培養によりマグネシウム欠乏症を 起こした場合にも同様であった。 チモシー品種のうち、本病に対してとくに抵抗性のものはみられなかった。 施肥法に留意して、加里その他の要素欠乏症をおこさぬように注意することが本 病の被害軽減上肝要である。 マンネブダイセン330倍液の散布は本病防除上効果があった。


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