農業研究本部

石狩川汚濁水の水稲生育に及ぼす影響について

田北 辰雄、三好 一夫、長谷川 繁夫、芽野 三男、中山 利彦

北海道立農試集報.9,88-107(1962)

1.汚濁水の水質 昭和17年度および昭和32年度の調査結果も同様であるが、石狩川上流水と下流水とでは明確な差がみられた。すなわち、これを要約すれば流水は
1)浮遊物が異常に多い。
2)アムモニア態窒素が多い。
3)石灰、苦土、ソーダ、塩素などが多い。
4)pHが低い。
5)過マンガン酸カリ消費量が大きい。
などである。このうち浮遊物は時期により消長があるが、6月下旬から急増し8月に入って最も多くなるようである。この浮遊物中には、過去の調査によればOospora-lactisと称する菌が、河水中の窒素分を栄養源として急に繁殖し、降水による水位および流速の増加により付着物から離れて流れ出すものと考えられる。また、この浮遊物は水田中に流れ込み稲の生有を阻害するのであるが、その実体は大部分微細な泥土である。すなわち灼熱損失量が非常に小さいことからみても明らかである。これは水中に浮遊する微細な菌またはパルプ繊維などの浮遊物に水中の泥土が付着して褐色大型の浮遊物を形成するためと考えられる。

2.汚濁水の植生におよぼす影響 昭和17年に実施された試験によれば、汚濁水は水稲籾の発芽ならびに稚苗の生育に直接の被害を与えないとしており、さらにポット栽培の稲に対しても害のないことを明らかにしていた。本試験の結果は、石狩川上流水と下流汚濁水を用いた試験区の間に生育収量の差はみられるが、明らかな傾向を示さなかった。また、浮遊物を除去した区としない区においても明らかな傾向を示していない。すなわち、この試験の結果からは、汚濁水の水質そのものが植生に与える影響は明らかにし得なかったので、さらに精密な検定を必要とすると考えられる。しかし、浮遊物の沈澱は植生に決してよい影響を与えるものではなく、後期の窒素過剰による減収の原因ともなることは明らかと考えられた。

3.汚濁水の水稲生育ならびに収量におよぼす影響 昭和17年に実施した試験では沈澱池をつくって浮遊物を沈澱させて取り除く方法をとったが、本試験では金網を用いて濾過する方法によった。従って汚水区と濾過区の間の収量差は汚物の有無による差と考えることができる。その結果をみると、玄米収量で15.7%の減少となっている。この原因については生育調査の結果から後期の窒素過剰、汚物沈澱による地温の低下などによる生育遅延が主であると考えられる。昭和17年の試験結果も沈澱池を設置した区は、設置しない区に比し増収することを明らかにしている。

4.汚物の影響範囲 本試験は汚物の存在により被害をうける範囲を明らかにするために行なわれたが、この結果によると大体8m~12mの範囲であった。しかし、これは水口からの取水量すなわち流量と流速により異なる。すなわち水口の分担する灌漑面積の大小とその水田の用水量の多少により条件が異なっており、この結果からは影響範囲について速断は下せないと考えられる。すなわち取水量多く、流速の早いほど当然影響範囲は広くなるのであるが、本試験の結果、現地実態調査の浮遊物の沈積状況からみて、取水量の多い場合でも、大体水口から20mまでが汚物の存在による影響範囲と考えられる。また、取水量の多い水口では、稚苗の機械的障害による流失の大きいことも明らかにされた。

5.現地の実態 前述のように、被害実態はその水口の事情により異なるが、特に苗の流失による被害の多いことが目立った。また、沈殿池をつくることにより被害を軽減できる場合が多かったが、沈殿池、用水路などの管理を十分に行わなければ効果があがらない。

  以上の結果から汚濁水中の浮遊物の影響について要約するとつぎのとおりである。

1.浮遊物による機械的障害
1)水口における稚苗の流失と埋没
(1)浮遊物による間接被害
(2)浮遊物の腐敗分解による生育後期の窒素過剰に基づく生育遅延
(3)浮遊物の沈積による地温の低下、高位節から発根することによる生育遅延


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