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中央農業試験場

農業環境部 (生産技術グループ)

(1)グループの概要

道央圏における畑作物・園芸作物を対象とした栽培・土壌肥料に関する試験研究や,化学肥料や化学農薬の使用を必要最小限にとどめた「クリーン農業」とそれらを基本的に使用しない「有機農業」を技術的に支援する研究を行っています。特に,1.畑作物の収量・品質の安定化に向けての栽培技術や,2.露地野菜の減化学肥料栽培技術,3.有機物・肥料等の有効利用法,4.農産物の品質,環境に配慮した持続的土壌管理法に関する研究を行っています。

(2)スタッフ一覧

研究主幹大橋 優二
主査(栽培環境)杉川 陽一
研究主査鈴木慶次郎
研究主任桑原 萌
研究職員古林 直太
専門研究員古館 明洋

 

 


(3)実施中の研究課題

1)春まき小麦新品種候補系統「HW10号」および秋まき小麦菓子用品種「北見95号」の高品質安定栽培技術の確立(令和 5~令和 7(2025)年度)

春まき小麦新品種候補「HW10号」の収益性向上のために肥料価格を考慮した適正施肥量を明らかにします。また、菓子用の秋まき小麦のタンパクを安定化する技術を開発しています。

2)醸造用ぶどうの安定生産に向けた栽培管理技術の開発と樹相診断指標の作成(令和 5~令和 8(2026)年度)

道内の醸造用ぶどう産地における過去データを整理するとともに、収量、果実品質および樹体生育を調査し、それぞれの関係から安定生産を可能とする新たな樹相診断指標を作成しています。

3)大豆有機栽培における省力・安定生産技術の開発(令和 5~令和 7(2025)年度)

大豆の有機栽培において、除草作業の省力化のため、中耕・培土による雑草制御技術を確立します。また、密植と窒素施肥法を組み合わせた収量安定化技術を開発しています。

4)有機輪作品目の多様化に向けたさつまいも栽培管理技術の開発(令和 7~令和 9(2027)年度)

さつまいもの有機栽培において、効果的な施肥・除草法や茎葉残渣のすき込みによる有機物施用が後作作物に及ぼす影響を明らかにし、さつまいもの導入効果を提示します。

5)AI農業社会実装プロジェクト(令和 5~令和 7(2025)年度)

作物モデルおよびギャップ解析に資する基本AIモデルやファインチューニング手法の開発に向けて、気象データおよび衛星データを用いた登熟期間中および成熟期後の穂水分予測法の北海道における適用性を検証しています。

6)秋まき小麦の生育期節の数値化と画像診断技術の開発(令和 6~令和8(2026)年度)

秋まき小麦の詳細な生育期節を北海道に合わせた形で数値化し、気象データによる予測法を確立します。生育診断の簡便化・自動化を図るため、モバイル端末の機種間差に左右されない汎用性の高い画像(RGB画像)を用いた、実測を置き換える画像診断技術を開発しています。

7)気候変動データベース構築と2050年以降の農林業等への影響予測および適応策(令和 7~令和 11(2029)年度)

気候変動が道内の畑作物(小麦(当G担当)、豆類、ばれいしょ、てんさい)の生育や収量、品質、栽培適地等におよぼす影響を予測するとともに、適応策を提示します。

8)農業副産物を活用した高機能バイオ炭の製造・施用体系の確立ー高機能バイオ炭等によるCO2固定効果の実証・評価等(令和 5~令和 7(2025)年度)

たまねぎに対するバイオ炭施用の影響を調査し、連年施用による土壌物理性向上等による生育・収量等への影響や土壌炭素への影響を明らかにします。

9)農地土壌炭素貯留等基礎調査事業(農地管理実態調査・基準点調査(令和 3~令和 5(2023)年度)

国際指針に準じた温室効果ガスの吸収量算定方式に基づく土壌データ収集のために,全国的な農耕地における土壌炭素の貯留量と営農管理による変動を明らかにする一環として,北海道においても試験を実施しています。

(4)最近の研究成果

北海道農業試験会議(成績会議)に提出された最近の研究成果を示しました。概要書等をクリックするとPDFファイルまたはリンクが開きます。

●子実用とうもろこしの有機栽培における安定生産技術と輪作体系への導入効果

(令和7(2025)年指導参考事項,概要書パンフレット

窒素施肥は基肥+分施とし、目標子実収量から乾物総量を求め、飼料用とうもろこしの施肥 ガイドを準用して窒素施肥量を決定します。抑草処理は中耕-培土-培土処理が最適です。 大豆、小麦の交互作に子実用とうもろこしを加えた輪作体系の導入により、土壌理化学性が 改善し、大豆や小麦の収量が向上します。

●園芸作物における堆肥入り複合肥料の特性と活用法

(令和6(2024)年指導参考事項,概要書パンフレット

有機物由来窒素の配合割合を 30~40%、うち C/N 比が概ね 15 以下の牛・豚ふん堆肥由来窒 素の配合割合を 20%以下とした複合肥料は、施用後、速やかに窒素を放出します。トマト、ほうれんそう、キャ ベツに対し、本資材を YES!clean 栽培の適合基準に遵守して用いることで、有機物施用と省力化を両立できます。

●安定確収のための秋まき小麦有機栽培技術

(令和5(2023)年指導参考事項,概要書パンフレット

秋まき小麦有機栽培で収量性優先の場合は9月中旬に255粒/m²播種し、越冬性優先の場合は8 月下旬~9月上旬に340粒/m²播種します。窒素施肥量は基肥-雪上(3月中旬)-止葉期:4-4-4~ 8kg/10aを目安とします。間作緑肥は雑草抑制に効果的です。過剰追肥は赤さび病を助長します。

●植物成長調整剤を用いた春まき小麦「春よ恋」の高品質多収栽培技術

(令和 4(2022)年指導参考事項,概要書パンフレット

「春よ恋」は,植物成長調整剤を 1回散布する場合,窒素3~4kg/10aの幼穂形成期追肥または基肥増肥を実施することで慣行栽培より増収が見込めます。窒素肥沃度区分や幼形期・穂揃期生育診断により窒素増肥および追肥の要否を判断することで,倒伏回避と増収・高タンパク化を両立できます。

●越冬性緑肥の活用法と有機野菜への導入効果

(令和 3(2021)年指導参考事項,概要書パンフレット

越冬性緑肥ヘアリーベッチは、生育期間の有効積算気温を播種~年末で 350℃,年始~すき込みまでに 300℃を確保すると250 kg/10a(ライ麦との混播では600 kg/10a)の高い乾物生産を見込めます。すき込み後 2週間以上の腐熟期間を設ければ,後作の有機野菜への窒素施肥量を施肥ガイド準拠量に削減しても標準施肥と同等の収量が得られます。

●秋まき小麦「きたほなみ」の気象変動に対応した窒素施肥管理

(令和 2(2020)年普及推進事項,概要書パンフレット

「きたほなみ」は多肥を避け,起生期ではなく幼穂形成期に追肥すると登熟寡照条件でも減収しにくい。気象要因による収量・品質の変動を抑えるには,穂数 550~650本/㎡を目標に受光態勢を良好に保つことが有効です。止葉期頃の気象庁 1ヶ月予報から登熟条件の良否を予測して施肥対応すると,タンパクが安定します。

●気象情報および作物モデルを用いた秋まき小麦の生育収量変動の評価・予測法

(平成31(2019)年指導参考事項,概要書パンフレット

登熟期間中の日射気温比からポテンシャル収量を簡易に推定できます。同手法または作物モデルWOFOSTを用いて,登熟気象条件の評価や当年収量の予測,収量変動に及ぼす気象要因の定量的評価が可能です。また,気象予報が反映された圃場ごとの生育期節・穂水分を Web上で予測できます。

●有機栽培露地野菜畑におけるリン酸施肥対応と総合施肥設計ツール

(平成31(2019)年指導参考事項,概要書パンフレット

有機栽培露地野菜畑のリン酸肥沃度に応じたリン酸施肥量の増減肥法(施肥対応)は,北海道施肥ガイドのリン酸施肥対応を適用できます。施肥設計ツールを使用することで窒素,リン酸,カリの施肥量目標値が算出され,有機質肥料の施用量を簡易に設定できます。有機栽培露地野菜畑向け施肥設計ツールTORVE(MS-Excelファイル)は道総研HP(https://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/torve/index.html)から入手できます。

●ブロッコリー栽培における化学合成農薬・化学肥料削減技術の高度化

(平成29(2017)年指導参考事項,概要書パンフレット

ブロッコリー栽培において,化学合成農薬としてカウントされない農薬や発酵鶏ふんを代替資材とし,化学合成農薬,化学肥料 5割削減技術体系を確立し,モデルを提示しました。本技術は慣行と同等の規格内率が得られ,さらに L・2L規格の花蕾数を確保できました。

●春全量施肥を前提とした有機栽培たまねぎの窒素施肥基準

(平成29(2017)年指導参考事項,概要書パンフレット

窒素含有率4%以上の有機質資材を用いて施肥窒素の全量を当年春に施肥すると,春分施体系(施肥窒素の 2/3を前年秋に, 1/3を当年春にそれぞれ施肥)よりも作土の無機態窒素が確保されて増収します。 4月下旬までの極早生品種の移植を前提に,目標収量(4400kg/10a)の確保に必要な窒素施肥量を窒素肥沃度別に示しました。

●硬質秋まき小麦「つるきち」の高品質安定栽培法

(平成29(2017)年指導参考事項,概要書パンフレット

「つるきち」の新たな栽培目標として,収量 600kg/10a,タンパク質含有率13.0%を設定しました。窒素施肥(起生期‐幼形期‐止葉期)は 8-4-4(kg/10a)を標準とし,生産実績を活用した設計法,および止葉期葉色・生育診断に基づいた対応により最適化が可能です。早まきは多雪地帯で増収効果があります。「つるきち」に対応した窒素施肥シミュレートツールNDAS(MS-Excelファイル)は道総研HP(http://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/ndas/index.html)から入手できます。

●移植たまねぎ安定生産のための窒素分施技術

(平成28年(2016)普及推進事項,概要書パンフレット

基肥:分施=2:1の配分で移植後 4週目頃に硝酸カルシウムを分施することにより,多雨に伴う応急的追肥が不要となり,様々な降水条件下で移植たまねぎの安定生産と環境への窒素負荷低減が可能となります。本技術をリン酸施肥削減技術と組合せると,初期生育向上でより一層の安定生産が図られ,所得の更なる向上も期待できます。

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