農業研究本部へ

上川農業試験場

水稲についてのQ&A


Q1.水稲、イネ、米(コメ)のようになぜ呼び方が違うの?

人間に飼育された動物を家畜といいますが、人間によって栽培されるようになった植物を作物といいます。
「イネ」はイネ科イネ属に属するイネ種という植物の分類学上の総称です。学術上はカタカナで表記することになっています。イネ種にはさらにいくつかの亜種があり、我が国で普通に栽培されているのはジャポニカ亜種です。同じイネ種の中でも様々な特徴を持つものがあり、その中から、特定の性質を持つ個体を分離あるいは作出して遺伝的に固定(同じ性質が子どもに引き継がれるように)し増やしたものが品種と呼ばれます。
この植物を作物として栽培する場合、水を張った圃場で栽培するものを「水稲」と呼んでいます。水を張らない畑で栽培するイネは「陸稲(りくとう、おかぼ)」と呼ばれます。
イネの実であり種子である「籾(もみ)」は、外側の籾殻(もみがら、生物学的には穎(えい))と内部の玄米から成りますが、一般に米(コメ)と呼ばれているのは、この籾全体を示したり、玄米を示したりする社会的な用語と言えます。玄米から表層の糠(ぬか)層や胚など取り除いたものが「白米」です。


Q2.世界にはどのようなイネがあるの?

皆さんが食べているお米や、麦、豆、野菜、くだもの、これらの作物は、すべて大昔に人間が野生の植物から選び出して、長い時間をかけて、改良してきたものです。たとえば、皆さんは大きなリンゴを食べていますが、野生のリンゴはサクランボぐらいのとても小さいものだったそうです。
現在栽培されているイネも、野生のイネから選ばれました。しかし、一体、だれが、どこで、野生のイネから栽培イネを作り出したのか、もう何千年も前のことなので、良くわかりません。最近の研究では、中国の揚子江(ようすこう)という大きな川のほとりで、イネの栽培、すなわち稲作(いなさく)が始まったと考えられているようです。その後、世界中に稲作が伝わり、日本では弥生時代に稲作が始まったということは、社会の歴史でならったと思いますが、縄文時代後期にはすでに日本で稲作が行われていた、という最近の報告もあります。
世界では、アジアが一番イネをつくっていますが、これはアジアには、気候が暖かく、雨のたくさんふる国が多くて、稲作にむいているからです。特に、稲作のさかんな国は中国、インド、インドネシア、タイなどです。このほか、アメリカ、南アメリカのブラジル、それからイタリア、フランスなどのヨーロッパ、ロシア、東ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリアなどでもイネを栽培しています。
イネの品種は世界中で何万種類もあって、一体どれだけあるのかわからないくらいです。これらは、すべてオリザ・サチバというひとつの「種」に属します。これらの品種を似たもの同士で分類すると、日本型、インド型、ジャワ型などのグループにわかれます。 日本型イネは皆さんが毎日食べている日本のイネや、中国で作られているイネのことです。この日本型イネの特徴は、寒さに強く、お米の粒が小さくて、ごはんのねばりが強く、おいしいことです。
インド型イネというのは、インドやタイ、中国の南のほうでつくられているイネで、寒さには弱いけれど、暑さに強く、お米は細長くて、ごはんはパサパサしてねばりが少ないものです。平成5年の大冷害のあと、日本のお米が足りなくなって、外国からたくさんお米を輸入しましたが、その時に、タイ米はおいしくないと評価する人が多かったようです。でも、タイやインドなどではおいしく食べているそうなので、国によって好きなお米の種類がずいぶん違うのですね。ジャワ型イネというのは、ちょうどインド型イネと日本型イネの中間のようなイネです。これは、インドネシアなどで栽培されています。このほか、アフリカにはオリザ・グラベリマという別の「種」に属する栽培イネもありますが、今ではアフリカでもオリザ・サチバがたくさん栽培されています。


Q3.水稲の品種改良はなぜ、どのようにするの?

品種改良というのは、新しい品種を作ることです。なぜ、新しい品種をつくるのでしょうか。
それは、いままでの品種よりもおいしくなることで、消費者がよろこんで買ってくれるようになるため、そして、たくさんとれて寒さや病気に強い品種ができれば、農家の人が作りやすくなるためです。
北海道のイネの品種改良で大事なことは、北海道でもきちんと実る、早生(わせ)で、寒さに強く、おいしい品種を作ることです。以前は、北海道のお米は本州のお米にくらべておいしくないといわれてきましたので、食味の改良に力を入れてきました。
実際に品種を作るには、まず、性質が違う品種同士をかけあわせ(交配)、その子ども、孫、ひ孫たちを作り出して、その中から、性質のすぐれたものを選び出します。これを、選抜といいます。
そして、選抜されたものを、さらにいろんなテストにかけます。このテストには、寒さに強いかどうかを調べる試験、いもち病という病気に強いかどうかを調べる試験、お米がどれぐらいとれるかを調べる試験、おいしいかどうかを調べる試験、そして、北海道の品種としてふさわしいかどうかを決定する「優良品種決定試験」など、さまざまなテストに合格して、はじめて品種になるのです。
たとえば、「きらら397」は、「しまひかり」と「キタアケ」という、ふたつの品種をかけあわせ、その子どもたちの中から選び出されました。「しまひかり」は、おいしいが寒さに弱いという特徴がありました。この品種はせっかく、おいしいのに寒さに弱いために、北海道の南のほうでしかつくれませんでした。それに対して、「キタアケ」は、あまりおいしくありませんが、寒さには強い品種でした。そこで、ふたつの品種の良いところをくみあわせて作り出したのが、寒さに強く、おいしい「きらら397」というわけです。
「きらら397」の場合は、かけあわせてから品種になるまで、8年かかりました。8年というと、ずいぶん長いと思うでしょうが、これでも昔にくらべると3~4年も短くなりました。この、品種ができるまでの時間を短くするために、温室で秋や冬の間もイネを育てて一年間に2回、イネを作っています。


Q4.水稲の品種改良ってたいへんなの?

水稲の品種改良は、交配から始まり、交配でできた種を増やして、たくさんの種類をくらべて良いものを選ぶくりかえしです。どのようなかけ合わせ(交配)でどのように選べば、作りたい品種を作ることができるのかを考えるのは、答えのない問題を解くようで難しいことです。
実際の作業でも大変なことはたくさんあります。交配は暑い真夏の時期に、しめきった30~35℃前後の湿度の高い部屋で行うので汗だくになります。また、たくさんの種類を植えて刈り取るためには、機械ではなく手作業で田植えをしたり、稲刈りをしたりしないといけない場合もたくさんあり、体力も必要です。イネが寒さに強いかどうかを試すテストでは、強弱の差がうまく差が出るように適温の水に調整したり、病気への強さを試すテストでは病気が出やすい条件にしたりするのも難しいところです。お米のおいしさを調べるには、機械も使いますが、実際に食べておいしいかどうかも調べています。この試食テストは3ヶ月以上の間、毎日、時には1日に2回も行います。おかずなしで白いごはんだけを食べますので、だんだん苦痛になってきます。しかし、だれも食べたことのないものを調べて、おいしいものを見つけることは、とても楽しいことでもあります。
このように、いろいろ苦労はありますが、新しい品種ができて、それが農家の人に栽培され、そして皆さんに食べてもらって、作りやすいとか、おいしい、と言われたときは、本当にうれしい気持ちになります。


Q5.遺伝子組み換えは行っているの?

上川農試など道総研(旧道立農試)が育成した水稲品種で遺伝子組み換えを行ったものはありません。
たとえば「ゆめぴりか」では、1997年に「札系96118」を母親(めしべ)、「上育427号」(ほしたろう)を父親(花粉)としてかけ合わせ、実った種子を増やしたものから優れた特性を持つ株を選び出すことにより開発したもので、2008年2月に北海道の優良品種に認定されています。
また、近年注目を浴びるようになったゲノム編集技術も導入していません。


Q6.北海道のイネ作りの始まりは?

北海道で稲作が本格的に始まったのは、明治時代になってからです。その前は、道南地域で栽培されたこともありましたが、その頃のイネの品種にとっては寒さがきびしくなかなか成功しなかったようです。
明治維新のあと、北海道の開拓が始まりました。最初は寒くて稲作は無理だろうと思われていましたが、島松村(現在の北広島市)の中山久蔵氏を代表として、熱心な農民が、自分でいろいろ工夫をしてイネの栽培に成功しました。やがて、農業試験場でイネの品種改良や栽培方法の研究が始まり、それにつれて、水田の面積もどんどん増えていきました。今では、北海道は日本のなかで重要なお米の産地となっています。
イネは、もともと暖かい地方で生まれた植物なので、春や秋の気温が低い北海道では、なかなかきちんと育って実をつけてくれませんでした。このため、北海道の中でも春や秋の気温が比較的高い道南地域、道央地域、そして道北地域のうち上川、留萌地方などでつくられるようになりました。


Q7.北海道のイネは本州のイネと違うの?

北海道で栽培されている品種は本州の品種とはまったく別の品種ですが、北海道で本州のイネが作れないのには、寒さだけではなくもう一つの大きな理由があります。じつは、本州の品種を北海道で栽培しても、秋になってから穂が出るので、寒くてお米がみのりません。ですから、北海道では、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」、「つや姫」などの本州のイネが栽培できないのです。これは日長反応と言って、本州のイネは日が短くならないと穂が出ないという性質を持っているためなので、気温が変化しても大きく変わることはありません。逆に、北海道の品種は日が長くても暖かくなれば穂が出る性質をもっているので、北海道には適していますが、本州で栽培するとイネがまだ小さいうちに穂がでてしまい、わずかの量しか収穫できません。
そのため、北海道の品種は北海道で独自に品種改良を行う必要があるのです。


Q8.寒さに強いイネはどのようにしてつくるの?

作り出したたくさんの系統を、「耐冷性(たいれいせい)検定試験」という試験に入れて、その中で成績の良かったものを選び出します。それを繰り返すことで、今まで以上に寒さに強い系統を見つけ出していきます。
イネの耐冷性は大きく3つの種類に分けられています。
・遅延(ちえん)型耐冷性:イネが小さいうちに寒さに当たってしまったとき、その成長が遅れない能力
・穂ばらみ期の耐冷性:茎(稈)のなかに小さい穂が出来てきた頃に寒さに当たっても、きちんと実(お米)を作ることができる能力
・開花期の耐冷性:花が咲いたときに寒さに当たってもきちんと実(お米)を作ることができる能力
この中で、最も重要なのは穂ばらみ期の耐冷性です。この時期に寒さが来ると、寒さに弱いイネは実らなくなってしまいます。
そのため、19℃前後の冷たい水の中でイネを育てて実り具合を調べる中期冷水掛け流し水田を用いた穂ばらみ期耐冷性検定を行い、寒さに強いイネを選び出しています。


Q9.品種名はどのようにつけるの?

品種名の決め方には3つの方法があります。
(1)一般公募:一般に名前を募集してその中から選定されます。新聞等にお知らせが出たときには応募してみてください。「ゆめぴりか」「ふっくりんこ」「ほしのゆめ」「きらら397」は一般公募で応募された中から選ばれた品種名です。
(2)準公募:関係者(道庁、農業試験場、農業団体等)から募集し、選定されます。「ななつぼし」「えみまる」など。
(3)育成者が命名:育成に携わった人たちがつけた名前です。「ゆきひかり」以前の品種はほぼこの方式で決められていました。
次に、現在栽培されている主な品種の名前の由来を説明しましょう。

水稲品種名由来

えみまる

「ほしまる」の後継品種であることから「まる」をとり、省力的な生産がしやすく、おいしいので生産者も消費者も笑顔になると言う意味が込められています。

ゆめぴりか

「夢」とアイヌ語で美しいという意味の「ピリカ」をかけあわせて、北海道米の夢をになうお米になってほしいという願いを込めて命名されました。なお、名前は一般公募により、3422点の応募の中から選ばれました。

ななつぼし

北海道では空気がきれいなためななつぼし(北斗七星)がきらきら輝いて見えます。このようなクリーンな北海道で生まれた、きらきら輝く美しいお米をイメージしました。中央農業試験場で作られました。

ふっくりんこ

食味特性を意識して、炊飯時のご飯が白くて、つやがあり、一粒ひとつぶが「ふっくら」とおいしく炊きあがる様子を言葉のひびきに込め、音感とともに表現しています。女性のみで構成された名称選考委員会において、応募総数4655点のなかから選ばれました。道南農業試験場で作られたお米です。

ほしのゆめ

「みんなの星、みんなの夢-米を作っている農家の人たちや、それを食べている日本人みんなの夢がかなって欲しい」との広く、深い思いが込められています。41,087通の応募のなかから選ばれました。

大地の星

北の大地に光り輝く星のように、北海道稲作にとって重要な役割を果たす品種になることを願って命名されました。この品種は、業務用米として、冷凍米飯などに使われています。

きらら397

「きらら」というのは、古い日本の言葉で雲母(うんも)のことですが、「きらめくようす」という意味もあるそうです。きらきらとかがやく雪をイメージさせるとともに、白いごはんを連想させることから、「きらら」という名前がつけられました。
品種になる前のイネは系統と呼ばれており、「397」というのは、「上川農業試験場で作った第397番目の系統」という意味で、品種の名前が付く前には「上育397号」と呼んでいたため、その番号からとったものです。

吟風

吟醸酒向け酒造好適米となることを願い、仕上がった酒がさわやかな風のようであることをイメージしました。中央農業試験場で作られました。

彗星

彗星(すいせい)とは夜空にたまに現れる「ほうきぼし」のことですが、北海道の夜空に輝く「彗星」のように清涼できれいな酒質の清酒となるように願いを込めて命名されました。

風の子もち

耐冷性が強く多収であるという特性が表現され、また、北の大地にしっかりと根をおろし、大きく育つことを願う意味が込められています。

きたゆきもち

雪のように白く、おいしいもち米になることを願って命名されました。



ページトップに戻る研究開発のページに戻る上川農試ホームに戻る