場長室より(風景とひとこと)
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2025.9.3 雨にも風にも耐えられるように
強い雨風のあと、稲が収穫前に倒れてしまうことがあります。

「倒伏(とうふく)」という言葉を使います。
倒伏は、穂など地上部の重さを支えきれなくなった茎が、折れたり曲がったりする現象です。
雨は、稲のからだを濡らして重くします。風は、重くなった稲を押し揺らし、次第に(時には一気に)傾け、倒します。べったり倒れてしまった稲は、元の立ち姿に戻ることはありません。

倒伏すると、下になった葉や茎には光があたらなくなり、濡れたからだが乾きにくい状態となります。その結果、粒がやせて収量が落ちる、腐る、くず米が増える、収穫に時間がかかる、種にしたときの発芽が劣る、などの悪影響が生じます。とくに生育が早い時期の倒伏は被害を大きくします。

倒伏は、直接的には雨や風の影響といえますが、どんな育て方をするかで倒れやすさは大きく異なります。
違う言葉で表現すると、できるだけ倒さないように栽培することが「基本技術」のひとつ、と言えます。
例えば、収穫量を増やそうとして窒素肥料を多く与えすぎると、茎が増えて長くなり、必要以上に籾(もみ)が実り、地上部の生育が過剰に大きくなって、少しの雨風でも容易に倒伏しやすくなります。逆に、肥料が少ない条件では、茎は少なく短く、籾は少なく、地上部は軽くなり、倒伏のおそれは少なくなります。ただし、収穫量も大きく落ち込んでしまいます。
腕の良い生産者は、倒伏させない適度にしっかり育てて、収量を確保します。この「腕」に相当する技術を、根拠をもって明らかにし、誰でも扱える技術として広く示すことが、農試の役割のひとつです。具体的には、倒伏が発生しやすくなる生育条件(茎の長さや数、面積あたりの籾の数、稲が吸収した窒素量など)を明らかにし、通常の気象であれば安全な範囲といえる生育目標と栽培方法を提示します。その際、倒伏だけではなく、食味に関する成分も考慮します。品種の違いによっても倒れやすさは変わるので、新しい品種が開発された場合は必ず栽培方法を示すよう取り組んでいます。
一方、「品種」という視点では、昔の品種と比べると、最近の品種はずいぶん倒れにくくなっています。具体的には、茎の長さが短くなり、茎の性質も丈夫になりました。同時に、茎や葉の重さに対する籾の割合(収穫指数)が増えてきているので、茎が短くなっても収量は増えてきています。


現在も、新品種候補を選抜する段階では、倒伏に対する耐性を明らかにするため、わざと倒れやすく栽培した(窒素肥料や苗の数が多い)試験区を設けています。倒れた稲の収穫には手間がかかりますが、広く栽培してもらえる品種を開発するために必要な試験と考えています。

とはいえ、対策を行っていても、台風などの強い風雨を受けた場合には、倒伏を完全に避けることは難しいです。今年は収穫直前のこの時期が雨がちで、短時間の強い雨も何度か生じており、当場内でも例年より倒伏が多いように観察されます。今後、極端な天候が増えていく中でどのような対応が出来うるか、ということも将来的な課題と考えています。
さて、私どもの試験ほ場では、刈り取ったあとの品質調査を重視する試験区があります。この試験区の稲が早くから倒れてれてしまった場合は、人の手で起こして、ひもで縛って立たせ、品質低下を極力避けるようにしています。その試験区が、今年は盛大に倒れました。

何らかのオブジェが並んでいるような、あまり見かけない風景があらわれています。

しばられた稲株を見るたび、こころのなかで「大五郎」とつぶやいています。

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