場長室より(風景とひとこと)
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2025.7.16 最初の選抜
水稲の出穂がピークを迎えました。定期作況報告は後日の公表となりますが、出穂期は平年よりかなり早いと思われます。暑い日が続いている影響なのでしょう。
さて、当場の田んぼには、ところどころカラフルな原色が目に付く不思議な試験区があります。

もちろん、稲のもともとの色ではありません。ペンキ(スプレー缶)で色をつけています。
これは、水稲の新品種開発に向けた、選抜の一環です。担当者はこの作業を「出穂スプレー」と呼んでいます。特定の時期に出穂した株を見つけ、目印として色をつけておきます。「選ぶ」行為としては、今年の播種では最初の作業です。

作業を行う時期によってペンキの色を変えており、色の種類で出穂した時期がわかるようにしています。この写真を撮った日はピンクでした。

マーキングを行うのは、交配を行ってから4~5世代目の株(世代をFと略し、F4、F5といった形で表します)です。着色した株を秋に収穫し、翌年の種とします。
どんな品種を開発するかという目的に応じ、早生を選びたい場合は早く出穂した株に印をつけます。中生など目的の出穂時期がある場合には、その時期にマーキングを行います。秋には、印をつけた株のみを収穫し、翌年の種とします。
この作業はタイミングが重要で、出穂がすすんでしまったあとでは、どれが早生で晩生なのか、見分けることが難しくなります。
夏が短く秋冷が早い地域では早生品種が必要です。一方、秋が長く収穫時期が多少遅れても不安のない地域では、早生よりも晩生の方が収穫量は高い傾向となります。栽培方法では、直播にすると収穫時期が遅れるため、移植栽培よりも出穂の早い品種が望ましい場合があります。近い将来には気候変動の影響で望ましい出穂期が変わる可能性もあります。ひとつの形質(特性)についても、これらの事情を勘案しながら選抜を行っています。
品種候補を絞り込む“選抜”は、出穂早晩の他に、耐冷性やいもち病への抵抗性、面積あたりの収穫量(多収性)、倒れにくさ(耐倒伏性)、お米の見た目(外観品質)、ご飯にしたときのおいしさ(白さ、柔らかさ、粘りなど)、そのほかにもたくさんの項目を確認しています。
すべての特性がいちどに改良された品種が理想的ですが、容易ではありません。例えば、早生と耐冷性で絞り込んだけど、そのなかにはおいしいものがなかった、といったことがしばしばあります。たくさんの交配を行い、その後代から両親よりもステップアップできた系統を次の交配に用いる、その作業を積み重ねることで、次第にいくつもの良い特性が集積されていきます。
品種改良の実務ひとつひとつは地味です。地味ですが面白いです。
品種改良という仕事を、その難しさと面白さをどうすれば伝えられるのか、ここ何年かの悩みでもあります。そのきっかけが何かないだろうかと、出穂スプレーの作業を眺めながら考えていました。

緑一色の田んぼのなかに、チラホラと赤、白、青、ピンク。
眺めているうちに、七夕の短冊に見えてきました。

こっそり願いごとを書いておこうか
「品種改良をもっとわかりやすく伝えられますように」
いや、やっぱりこっちだな
「豊作でありますように!」


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