場長室過去記事:20250522
2025.5.22 「さしなえ」
機械移植を行ってまもない試験水田を、スタッフ数名がゆっくり歩いていました。

場長「おお! さしなえだね?」
担当「はい、補植(ほしょく)しています!」
さわやかに、にこやかに、スマートに言い換えてくれました。さすがは、スマート農業を担う世代です。
機械移植後の補植を、私の地元では「さしなえ」と呼んでいました。漢字にすると「挿し苗」になるでしょうか。欠株が出たところに、別に用意した苗を手で植え付ける作業です。ぬかるむ田んぼで、腰を折り曲げながらすべての株を確認し植え付け歩く、結構な重労働です。以前はどこの地域でも見られた風景かと思います。
その後、機械の改良が進み移植の精度が高くなったこと、少々の欠株は周りの株が大きくなって補うため田んぼ全体の収穫量にほとんど影響しないことなどから、現在ではほとんど行われくなりました。
では、なぜ試験場で「さしなえ」、いや「補植」をしているのか。
われわれの目的は、収穫物を販売することではなく、客観的な精度の高いデータを取り、それに基づいた新しい技術を確信をもって提案することです。「試験」目的では、欠株の影響を容易に見過ごせないのです。
上の写真の田んぼは、実は、水を入れる前にいくつかの区画を設けて処理を行っています。秋には、この一枚の田んぼのなかで、小さい面積の刈り取りを何カ所も行います。そのときになって、刈り取り場所によって株数が違うことがないよう、丁寧に「さしなえ」、いや「補植」しています。
試験処理以外の測定誤差をいかに少なくできるか、そのデータに自信を持てるか。試験精度を高めるための作業は、たとえ手間がかかったとしても、研究者がデータを分析して成果としてとりまとめる上で非常に重要なステップであります。
「補植」は、いまではあまり見かけない風景ですが、研究員としての大事な勘所(かんどころ)を先輩からしっかり受けついでいる姿に、目頭が熱くなる思いでした。
すみません。
思っただけで、目をこすっても何も出ていませんでした。久しぶりにひとかたまりの「さしなえ」集団を見たことで、少々ノスタルジックになったかもしれません。
冗談はさておき、頼もしい、うれしかったなあ。