場長室過去記事:20250618
2025.6.18 暗黙の委任
農業試験場は、農家個々で取り組むことが難しい技術開発や調査を、代表して行っているところである。そのように、私は理解しています。

たとえば品種改良は、明治時代に公費による育種事業が始められるまで、各地の「篤農家」が自発的に良い品種を探して選択してきました。道央以北での水稲栽培を可能とした「赤毛」や「坊主」は、それぞれ当時の農業者(篤農家)が見いだした品種です。現在、農業試験場で行っている品種改良も、用いている交配親のそのまた親をずっとたどっていくと、各地の篤農家の名が記された在来品種にゆき着きます。篤農家の流した汗を受け継いで、さらに改良を進めているのが、農業試験場であるといえるでしょう。

また、たとえば、北海道で行われている水稲の温床育苗は、ある農業者(篤農家)が試みて成功した方法をもとにして、全道にその技術が広められました。篤農家の取り組みから出発した技術や発想に、科学的な裏づけをしながら、さらに広く利用できる一般的な技術として磨き上げることを、農業試験場は担ってきました。

農業者が生業を営みながら、同時に新しい技術を継続して「試す」ことは容易ではありません。それは、多忙な”百姓”仕事のなかでは常に「余計なしごと」であり、経営上の「リスク」であり、その年の収穫を台無しにしてしまう可能性すらあります。そういった取り組みを実践していた「篤農家」たちは、自分の農業経営よりも、地域農業の将来を優先する、強い使命感を抱いた方々だったのかもしれない、と想像しています。
農業試験場は、過去に篤農家が担っていた農業技術の開発を、暗黙の委任を受け、代表して行っている。
そういう心構えを大事にしたいと考えています。
私も、先輩方に胸をはれるような取り組みが出来ているだろうか。せめて猫背は直したい。