場長室過去記事:20250910稲の刈り取り最盛期です
2025.9.10 稲の刈り取り最盛期です
農試の周辺でも、稲刈りが最盛期となりました。あちこちでコンバインが動いています。
コンバインは、稲を株もとから刈り取り、刈った稲から籾を取り分けるところまでを自動化した機械です。当場も所有しており、比較的規模の大きな試験(加工試験試料など)や、細かいサンプルを採ったあとに残った稲の収穫など、試験水田の管理には欠かせないアイテムです。

いまから60年ほどさかのぼった頃、稲刈りは、すべて人手で刈り取って、束ねて、自然乾燥(はさがけ)させていました。乾燥させた後には、稲から籾を分離する「脱穀(だっこく)」 ( 「稲こき」 とも呼びます)という作業が別途必要でした。その後、刈り取りと束ねを自動化する「バインダー」が登場し、さらに脱穀まで一気に行える「コンバイン」へと移り変わります。手刈りの時代から見ると、バインダーはとても便利ですし、さらにコンバインは画期的で、田植機やトラクタと並び、お米の栽培に人手がかからなくて済むようになった、大きな原動力となっています。
当場では、手刈り、バインダー、コンバインそれぞれを、試験の規模や内容に応じて使い分けています。
コンバインの利点は、広い面積を大量に一気に処理できることです。一方、たくさんの品種や処理区を区別して扱う場合は、機械の中で種が混じったり(きれいに掃除するのも時間がかかりすぎる)、小回りがきかないなど様々な不具合が生じます。
特に、精密な試験データを得る、次年度用の種を取る、という二つの場面にはコンバインは適さないので、バインダーを用います。バインダーを操作することが難しい場所や試験では、人手で刈り取っています。
ご参考にバインダー収穫の作業風景をご覧ください。

バインダーは、コンバインの前の方の一部だけを切り取ったような機械です。バインダーの下部についたギザギザの刃が左右に動いて稲を刈ります。刈られた稲が一定の量になると、「カッチャン」と音が鳴って、稲束が横に飛び出します。この稲束は、下から15cmくらいの位置で麻ひもで縛られた状態です。縛る瞬間は一瞬なので、何度見ても仕組みを理解できないのですが、とてもユニークな機械だと思います。

バインダーで収穫した稲束は、雨が当たらない場所で「はさがけ」をして自然乾燥します。後日、刈り取り作業が一段落したあと、屋内にて脱穀作業が行われます。

来年の種にする試験区は、田んぼ1枚の広さであっても、種の混じりを避けるため、バインダーを用いて収穫しています。やはり、コンバインと比べると労力や手間は格段に増しますが、「良い種を取る」という目的では最も確実な方法です。

ちなみに、良い種とは、①芽が出る、②健全(病気がない)、③遺伝的な特性が良好かつ均一であること、があげられます。このうち「「③遺伝的な特性が良好で均一」とは、特性が優れた優良な品種であること、さらに別の品種が混じっていないことを意味します。種を買う立場では①~③は当たり前のことだと思いますが、種を作る側ではこれらの条件を満たすために一般の栽培とは異なる慎重な作業を行っています。特に、新品種を開発する段階では、その後のおおもとの種(たね)となる可能性があるため、考えられ得る最も良好な状態を保てるようにしています。
さて、試験場では現役バリバリに活躍している「バインダー」ですが、検索サイトで「バインダー」と入力してみたところ、紙を挟む文具ばかりが並びました。農業機械の「バインダー」が、もはや一般的な言葉ではないということを思い知らされています。
少し前にメーカーの方に伺ったところ、北海道でバインダーを新規購入するのは農業試験場くらいしかないそうです。カタログにはずっと掲載されているので、その点はホッとしてます。
場内の収穫作業を眺めていると、試験の精度が高く細かくなるほど、たくさんの種を大事に扱うほど、より昔の刈り取り方法に戻っていくように感じられます。生産現場ではみられなくなったような技術も、目的が異なれば、なんとありがたい機器・手法なのだろうと思います。
新しいものを作っているはずなのに、行っている作業は昔なつかしいというのも、ちょっと面白いですね。
手刈りの試験区だって少なくありません。

試験水田の収穫作業は、ひと月ほど続きます。