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上川農業試験場

場長室過去記事:20251016ナンレッキョウセイ

2025.10.9 ナンレッキョウセイ

稲の収穫が手刈りからバインダー、コンバインへと変わってきたように、大豆でも少し遅れて、手刈りからビーンカッター(またはビーンハーベスタ)、コンバインへと収穫方法が変わってきました。

北海道で、大豆のコンバイン収穫が広まった要因のひとつに、「ユキホマレ」(2003田中ら)という品種の登場があげられます。現在でも作付け面積は上位の品種です。

 

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コンバイン収穫の普及を後押しした品種「ユキホマレ」

 

「ユキホマレ」は、早生・多収・高品質というだけでなく、それまでの主力品種と比べて、サイカチャッキョウイチが高く、クキスイブンがはやく低下し、さらにナンレッキョウセイという特徴があり、コンバイン収穫が格段に行いやすくなりました。

 

、、、、、、ごめんなさい。何を言っているか、さっぱりわからないですよね。

 

カタカナ部分をそれぞれ漢字にすると、サイカチャッキョウイチ:最下着莢位置、クキスイブン:茎水分、ナンレッキョウセイ:難裂莢性、となります。どれも、私のパソコンでは、容易に漢字変換してもらえませんでした。

「最下着莢位置」は、いちばん低い位置に実った“莢(さや)”の地上からの高さで、これが高いほどコンバインでの刈り残しが少なくなる利点があります。「茎水分」が高いと、コンバインの中で豆粒が汚れる原因となるため、成熟後は速やかに下がることが望ましい性質です。「難裂莢性」は、莢が割れにくい特性で、豆が地面にこぼれるのを防いでくれます。

いずれも大事な特性ですが、品種改良では特に「難裂莢性」が重要な取り組みでしたので、もう少しご説明します。

以前の大豆品種は、成熟期を過ぎ、収穫の遅れた莢は自然にはじける(割れて中身の豆がこぼれ落ちる)ことが、当たり前の姿でした。「手刈り」の頃は莢がはじける前に刈り取ってしまうので大きな問題ではなかったのですが、コンバインの場合は収穫の際に豆や茎が十分乾燥している必要があるため、適期は「手刈り」よりもかなり遅い時期となります。しかし、前述の通り、収穫が遅れると莢はひとりでにはじけやすくなります。以前のコンバイン収穫は、収穫適期を待つ間に自然に豆がこぼれ落ちたり、収穫の際にも機械に触れた莢が容易にはじけるなど、損失の多いことが課題でした。理想としては、莢をはじけさせないまま機械に取り込むことが必要で、このために莢がはじけにくい性質=「難裂莢性」を目標とした品種改良が進められてきました。

 

「難裂莢性」を目標とする品種改良は、道立十勝農試(現道総研十勝農試)で精力的に取り組まれました。中心的に担っていた土屋武彦さん(元上川農試場長)が当時の状況を書いてくださっているので(外部リンク:土屋武彦氏ブログ「豆の育種のマメな話」 より、 “機械収穫向き大豆品種「カリユタカ」育成の頃”“耐裂莢性という性質” )、詳しくはそちをご覧ください。 (上川農試の大先輩でもある土屋さんは現在もブログを継続して書いていらっしゃるようで、今回私も妙な緊張感があります)

ごくごく簡単に説明しますと、北海道品種の難裂莢性は海外品種に由来します。「カリユタカ」(1993田中ら)を嚆矢に、その後北海道で開発される新品種は難裂莢性が当たり前のようになりました(最新品種「とよまどか」も難裂莢性、2020小林ら)。さらに研究は進み、関連する遺伝子が解明され、本州向けにも難裂莢性品種が開発されてきています(外部リンク:農研機構「大豆難裂莢性品種群」)。

 

 

先日、よく晴れた昼前、収穫作業が終盤となった大豆の試験ほ場で、自然にはじけた莢を見かけました。

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少し古い品種では、晴れて気温の上がった秋の日に、莢がはじけて中の豆がこぼれ落ちることは珍しくない光景でした

 

ずいぶん久しぶりに見たように思います。「難裂莢性」の品種が広まったことで、秋にみられる大豆の姿は変わってきたと言えるかもしれません。
 

 

※などど書いてきましたが、20数年前、上川農試で大豆を担当していた私は、難裂莢性について懐疑的でした。当時は「ユキホマレ」の成熟期が9月20日を過ぎるのが当たり前、毎年10月15日前後には初雪があり、この間に水分が高めな状態でコンバイン収穫を行わざるを得ない状況でした。このような条件では、難裂莢性の品種はコンバインの内部で割れないままの莢(未脱莢)が多発し、別の形の損失が生じます。”難”ではなく、もう少し弱い中程度の裂莢性がちょうど良いのでは、と会議で発言した記憶があります。

最近の気象では、9月中旬には「ユキホマレ」が成熟期に達しますし、その後の気温も全般に高く、畑での大豆の乾燥が進むようになりました。当地でも現在は、難裂莢性品種の効果が存分に発揮されているものと思われます。別の見方をすると、当地域の大豆は、気温上昇が良い方向に働いている事例のひとつと言えそうです。

 

 

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