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酪農試験場

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根釧農試 研究通信 第11号 2002年3月

乳牛ふん尿を原料とした個人農家向けバイオガスプラントの提案


 

1.背景・ねらい

 近年、バイオガスプラントによる家畜ふん尿処理が注目されています。バイオガスプラントとは、酸素のない密閉された場所でおこなわれる嫌気発酵処理法を用いて、ふん尿を液肥化するとともに、バイオガスと呼ばれる可燃性ガスが採取できる施設の総称です。

 北海道では約20基のバイオガスプラントが稼働しています(2001年12月現在)。これら施設の多くには発電機が装備されていますが、本来、酪農用バイオガスプラントは良質な肥料生産が大きな主目的です、そこで、この研究では、①酪農地帯、②畑作地帯に適応した、農家個々を対象とした個別型バイオガスプラントを提案しました。 


2.個別型バイオガスプラントの考え方と基本設計

 バイオガスプラントでふん尿処理とおこなう場合、地域によって消化液(嫌気発酵処理後の処理液のこと)の利用条件が異なります。つまり、バイオガスプラントの形態を考える場合、次のように消化液の利用方法を念頭に置くことが最も重要となります。(図1、図2)


3.個別型バイオガスプラントの基本設計

(1)完全利用型バイオガスプラント
 酪農地帯のような消化液を自家利用する地域では、消化液利用に際し、キチンと草地管理していれば、雑草種子などの死骸を考慮する必要性が小さいと考えられます。

 このことから、完全利用型では、発酵槽を温めるエネルギー量が少ない低温発酵20℃(発酵温度20℃:利用可能なメタン濃度のバイオガスが安定的に得られる最低温度)、発酵槽は貯留式発酵槽(低温発酵に有利なスラリータンクなどの大型貯留槽を用いた方式)を採用し、処理日数は180日としました。乳牛100等規模で考えると、発酵槽の大きさは約1300m3となります。(図3)

(2)分配利用型バイオガスプラント
 畑作地帯のように自家以外で消費できない余剰消化液を近隣の畑作農家で利用することが想定される地域では、消化液は、雑草種子を死滅させなければなりません。嫌気発酵による雑草種子死滅の条件は、発酵温度が40℃以上、処理日数が10日以上です。

 このため、分配利用型では、連続式発酵槽と貯留式発酵槽の複合型を採用し、連続式発酵槽で確実に雑草種子を殺すため、発酵温度40℃、処理日数を30日としました。また、貯留式発酵槽では、完全利用型と同じく発酵温度20℃、処理日数を180日としました。乳牛100頭規模で考えると発酵槽の大きさは、連続式発酵槽は約220m3、貯留式発酵槽は1300m3となります。(図4)


4.最後に

 今回の基本設計では発電機を装備していません。この理由は、①今の制度では発電した電気を簡単に売買することは難しいこと、②発電機自体が約100~500万円と高価であることなど、解決しなければならない問題が多々あるためです。

 しかし、昨今の動きとして、自然エネルギーで発電した電気の売買の一般化や 発電機の低価格化が見込まれることから、皆さんの牛から出されたふん尿で発電された電気を使って搾乳できる日も遠くないでしょう。 


*発酵温度・良好な嫌気発酵をおこなうためには発酵槽の温度を一定にしなければなりません。嫌気発酵の発酵温度は、低温領域(20℃:運転管理が容易)、中温領域(一般的)、高温領域(55℃:衛生的)の3種類に分類されます。発酵温度の選択は、プラントの形式、消化液の用途、バイオガスの用途など、目的に応じて選択します。


(省略した図) 
  図1 一般的なバイオガスプラントのフロー
  図2 諸外国のバイオガスプラント(写真)
  図3 完全利用型バイオガスプラント
  図4 分配利用型バイオガスプラント
 

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