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根釧農試 研究通信 第11号 2002年3月 |
プレディッピングにおける薬液浸漬後の乳頭清拭法
1.背景・ねらい
搾乳前の乳頭を清潔に準備する乳頭清拭作業は、牛乳中への細菌や塵埃の混入を防ぎ、ミルカー搾乳時に発生する逆流現象によって乳頭付着細菌が乳頭内に進入し乳房炎を発症することを防ぐ重要な作業です。
「薬液浸漬→前絞り→(乳頭マッサージ)→清拭」の手順で実施されるプレディッピングは、水を多量に必要とせず、浸漬薬液を拭き取る作業に単純化・規格化が可能なことから、効果的で省力的な技術と言われています。プレディッピングでは、乳頭表面に付着する汚れの除去の程度は、薬液浸漬後の清拭作業の質と量に依存します。
粗雑な清拭作業では清潔な乳頭を準備するという目的を達成できないばかりか、セジメントの混入や薬液成分の生乳への移行を生じる危険があります。しかし、プレディッピングの薬液浸漬後に具体的にどのような資材と方法で清拭作業を行えば効果的なのかについての情報はほとんど見当たりません。
そこで、清拭資材の性状と拭き数(特定部位を清拭資材の表面を替えながら何回拭くかを表す数)が汚れと細菌数の除去に及ぼす影響を、模擬汚れ(芽胞を添加した滅菌スラリーに浸して風乾)と実際の汚れを用いて調査し、汚れの除去効果の高い薬液浸漬後の清拭方法を検討しました。
2.技術内容と効果
乳頭の薬液浸漬には、乾燥した汚れを膨潤化して落としやすくする効果がみられました。拭き数が1のときの、薬液浸漬のない場合と実施した場合の比較では乳頭側面部の模擬汚れの残存割合(清拭後芽胞数÷清拭前芽胞数)は、乾燥紙タオルでは0.8→0.2、湿った布タオルでは0.3→0.05と数分の1程度低下しました。(図1、省略)
清拭資材と拭き数の比較では、薬液浸漬後の清拭資材に乾燥紙タオルを使用した場合、模擬汚れの残存割合は拭き数が1では数分の1(0.2~0.3)、拭き数を3としても数十分の1程度(0.02~0.05)と大きな値となりました。
乳頭清拭作業による汚れの残存割合の目標値を500分の1(0.002)以下に設定すると、プレディッピングの薬液浸漬後の清拭では、乾燥紙タオルで清潔な乳頭を準備することは難しいことが示唆されました。
一方、湿った布タオルは乾燥紙タオルに比較して汚れの除去効果が高く、湿った布タオルを使用した場合の模擬汚れの残存割合は拭き数が1では10分の1程度(0.1~0.05)と大きいのですが、拭き数が3のていねいな作業では数千分の1(0.0003~0.0006)とわずかな量となり、清潔な乳頭準備が可能でした。(表1、省略)
実際の搾乳前の乳頭汚れに対して、ヨード系および非ヨード系製剤を使用して行ったプレディッピングにおいても、使用した製剤にかかわらず清拭作業に湿った布タオルを1頭1布以上使用して拭き数を3とすることで乳頭付着細菌数は概ね500分の1(0.002~0.003)に減少しました。 また、搾乳された牛乳中のヨウ素濃度の平均値は、ヨード系製剤区で146μg/L、非ヨード系製剤区で148μg/Lと差がなく、ヨウ素の牛乳中への混入もありませんでした。(表2、省略)
3.留意点
乳頭清拭作業による汚れの残存割合の目標値を500分の1以下に設定すると、プレディッピング 「薬液浸漬→前絞り→(乳頭マッサージ)→清拭」では、薬液浸漬後の清拭作業に湿った布タオルなどの汚れ除去効果に優れた資材を1頭1布以上使用し拭き数を3とするようなていねいな作業が必要です。
この場合、プレディッピング製剤は搾乳前の使用を認可された製剤を使用する必要があります。また、清拭に湿った布タオルを使用するときはタオルが細菌の汚染源とならないように、布タオルは毎回の使用後に除菌効果のある洗剤を使用して洗濯機で洗濯し、脱水した状態で保管する必要があります。
脱水機で固く絞られたタオルの水分は少なく、清拭後の乳頭に水分がほとんど残らないため、清拭後に紙タオル等で乳頭乾燥を行う必要はありません。
(省略した図)
図1 薬液浸漬後の乳頭清拭方法と汚れ付着量の関係
表1 清拭方法と乳頭付着汚れの除去効果の関係
表2 プレディッピングにおける乳頭付着細菌数の除去効果および乳中ヨウ素濃度