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酪農試験場

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根釧農試 研究通信 第11号 2002年3月

集約放牧における乳牛の繁殖と健康維持へのMUN濃度の利用


 

1.背景・ねらい

 放牧飼養では放牧草の植生や栄養価が季節的に変動しやすいことなどから、放牧草の摂取量が不安定となったり、栄養バランスが崩れやすいという側面があります。

 そこで、栄養バランスの指標である乳中尿素窒素(MUN)濃度を放牧牛群の繁殖や健康管理に活用する技術について検討しました。


2.技術内容と効果

適正なMUN濃度は乳牛の健康維持にとって重要
 放牧期における乳牛の健康とMUN濃度との関係について調べてみました。これらの牛には、蛋白質水準の異なる濃厚飼料(低、中、高)のいずれかを供給しました。

 その結果、乳牛のMUN濃度は、低CP区では低く、高CP区では高くなりました(表1、省略)。MUN濃度がおおむね暫定基準値の範囲内にあった低CP区と中CP区では、疾病の発生が比較的少ない傾向がありました(図1、省略)。

 ところが、泌乳前期のMUN濃度が基準値以上の20mg/dlを超えるような高い水準に達した高CP区では、疾病の発生率が他の2群よりも高くなりました。このことから、乳牛のMUN濃度が20mg/dlを超えるような高い値を示す場合には疾病の発生が増加する可能性があるため、好ましくないことがわかります。


MUN濃度は低すぎると受胎を妨げる  
 放牧期に人工授精した乳牛について、授精時のMUN濃度と受胎との関係を調べてみました。

 授精時 のMUN濃度が8mg/dl未満の乳牛では受胎例が得られませんでした(図2、省略)。一方、授精時に個体乳のMUN濃度が前途の基準値を超え、20mg/dl程度であっても、エネルギー不足を伴わなければ受胎に支障は認められませんでした。 


放牧時にはバルク乳MUN濃度の推移をチェックして牛群の健康維持と受胎率向上をはかる  
 天北地域で集約放牧を実施している3戸の酪農家について、約2年間にわたりバルク乳成分と疾病および繁殖成績との関係を調査しました。

 バルク乳MUNの濃度と疾病発生との関係をみると、MUN濃度が12~16mg/dlの範囲で最も疾病の発生率が低くなっていました(図3、省略)。受胎については、バルク乳のMUN濃度が12~18 mg/dlの区分で受胎率が高く、8 mg/dl未満では受胎率が極端に低下していました。(図4、省略)

 以上のことから、放牧時には個体乳のMUN濃度が8~20mg/dlの範囲内となるようにし、また、バルク乳のMUN濃度は12~16 mg/dlの範囲は大きくはずれることがないように飼養管理することが重要です。 


3.留意点

 MUN濃度は、摂取したエネルギーと蛋白質のバランスを表していますが、飼料摂取量が十分かどうかを知るため、乳蛋白質率やBCSなども合わせて把握することが望まれます。 


(省略した図)
 図1 集約放牧時に異なる蛋白水準の濃厚飼料を供給した場合のMUN濃度と疾病発生件数
 図2 放牧飼養における人工授精日の個体乳MUN濃度と受胎との関係
 図3 放牧期におけるバルク乳の月平均MUN濃度と疾病発生との関係
 図4 集約放牧農場におけるバルク乳MUN濃度と初回授精受胎率との関係(全期間)
 表1 放牧時の飼料摂取状況とMUN濃度との関係

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