水産研究本部

試験研究は今 No.16「漁業士北の海を語る」(1990年1月12日)

試験研究は今 No.16「漁業士北の海を語る」(1990年1月12日)

新春座談会 漁業士、北の海を語る

新春座談会の様子
司会: 本日は、井嶋さん、お忙しい中お越しいただき誠にありがとうございます。今回は、北海道漁業士の称号を授与される白糠の井嶋哲也さんに漁業士を代表して釧路水試の方々との対談の場を設けさせていただきました。先ず、井嶋さんから日頃思っている事柄などから話の口火を切っていただきたいと思います。

シシャモ予想は大当たり!?

井嶋: 以前、僕はサケ、マス漁業をやってたのですが、沖に出る時は漁海況情報が非常に役立ちました。今では人工衛星が上がっていて、水温などのデータがプロッターで打ち出され非常に便利になっていますね。

釧路水試: 現在、そのようなデータはブリッジでも見ることができますが、それらをどう読み、どう使うか、漁業に反映させるのは何よりも経験が必要です。水温でよく聞かれるのが、昨年に比べてどうなのか、これからどうなるのかと言ったことです。しかし、こういった予想ははっきり言って非常に難しい。というのはノアで入手できるデータが表面温度でして、これは時化になるとガラッと変わってしまう。安定した数値を得るには海底の水温を計測する必要があるのですが、200海里内などでのデータが少なく正確な予想は難しい。シシャモの予想もそうですが、仮に少ないという予想を出して多く獲れた場合は問題ないのですが、多いと出して少ない場合にはかなりの批判がある。また、予報によって魚価が変動するので、大変神経をつかっています。幸いシシャモはこちらの予想以上に獲れましたので、とても助かりました。

森を守る

井嶋: 今年はシシャモの漁が良かったので、2年後(平成3年)の産卵に戻ってくる年は大丈夫だと思いますが、63年の漁が悪かったので、平成2年がどうなるのか心配です。また、産卵場所となってる川にもいろいろな変化があり、実際、近くの川で順調にシシャモが生まれ育っているのかも心配です。

釧路水試: シシャモが主に漁獲されるのは2、3年魚で、中には4年魚、5年魚もあるみたいですが、産卵に戻ってくるのは2年魚からで、11月頃に産卵して次の年の春に孵化して海に降ります。井嶋さんの近くのチャロ川やショロ川で心配なのは、釧路川と比べ、1年を通じて水量に大きな変化があるということです。昔は山が深く木が一杯生えていて、今のように水がなくなることはなかったと思います。しかし、今は、年によって水が少なくなり、秋にせっかく産んだ卵が冬の間に凍って死んでしまう可能性だってある。これは水試だけで解決できる問題ではなく、河川に関係する全ての人たちで何とかしなくてはならない。

魚種交代!

新春座談会の様子
井嶋: シシャモの豊漁とともに新聞紙上を騒がせた話題として「魚種交代」という言葉がありました。僕らはイワシの魚種の交代と聞くと、次は簡単にサバと予想します。釧路沖でも、今から10年前にはイカが多く釣れていたんですがね・・・。

釧路水試: 最近、イカもいくらか増えつつあると思いますが、10年前の漁とは比較にならない。その中で、元年度は多いという感じがしています。「魚種交代」と言うと、獲れていたイワシが、ある日突然、獲れなくなって、違う魚種が現われるととられがちですが、これは急に魚種が入れ変わるのではなく、徐々にその水揚量が減ってきたことによるものです。その原因についていろいろ言われていますが、一つにはエルニーニョ現象が考えられますし、あるいはあまりにも獲り過ぎてイワシが減り、その間に他の魚種が入ってきたということも考えられる。また、食う、食われるの関係から言えば、魚はプランクトンを餌にしていますが、逆にイワシの子供や卵がプランクトンに食べられているために魚種交代が行われるとも言われています。また、海況変動の関係からいうと10年~15年くらい暖かい年が続いてから段々寒くなっていき、また、ある時代になると暖かくなるといった大きな流れで海況が変わってきている。そういう水温状態の変化と、イワシやサンマ、サバの3種類の関係をみると、イワシはどちらかというと冷たい海域に生活する魚です。サバは暖かい所で生活する魚で、サンマはその中間です。そういう関係から日本近海が冷たい時代にはイワシが、暖かい時はサバが、その中間の時はサンマが来るということです。今年あたりイワシが減ってきていますが、こういった現象と環境の変化の動きを考えますと、今までは冷たい年が続いたのが段々暖かくなってきている。だから、イワシからサンマに移ってくるのではないかと、海況の大きな動きから言われています。(次号に続く)