水産研究本部

試験研究は今 No.17「漁業士北の海を語る(その2)」(1990年1月19日) 試験研究は今 No.17「漁業士北の海を語る(その2)」(1990年1月19日)

試験研究は今 No.17「漁業士北の海を語る(その2)」(1990年1月19日)

新春座談会 漁業士、北の海を語る(その2)

北上する暖水

井嶋: 今年の12月始めの水温は、いつもなら4~5度なのに8度もあり、まるで秋アジの盛漁期の水温でした。イルカも陸に来ていたりと異変がみられたのですが、海の状況はどうなっているのでしようか。

釧路水試: 今年の海況は、南から上がってくる暖かい水の勢力が例年になく強く、夏場の沿岸域の水温も高めで推移しました。この北上する暖水の影響が残っていたために12月始めまで沿岸域の高水温が維持されたものと考えられます。

井嶋: 今年はサンマが良く、秋アジのはえ縄が不漁だったのは、水温の関係でサンマが陸にはいったから秋アジが沖に行ってしまったためなのでしょうか。

釧路水試: これは水温の関係で魚種の分布様式が変化したためと考えられます。よく「イワシが多いのでサンマが獲れない」とか言われるのですが、イワシは植物プランクトンを食べるし、サンマはオキアミなどの動物プランクトンを食べているので餌の面ではイワシやサンマが一緒にいても問題はありません。今年のように暖かい水が南から強く張り出すと潮目ができて、そこにイワシやサンマが集まったわけで、たまたまイワシが来たからサンマがいなくなったとか、秋アジがいなくなったなどとは言えないのです。また、漁業というものは、「何月何日から漁具をいれよ」といったように、ある時期がこないとできないものだから、行っても獲れないことがあります。ですから獲れた漁獲量で資源を判断すると資源全体の正確な姿を見られないことがあります。ここが資源研究の難しいところです。このために漁期外のデータを集めることができる試験船が大切なのです。

あか子とくろ子

司会: 井嶋さんはケガニ漁をなさっているそうですが、最近の漁模様はどうですか。

井嶋: 大漁というわけではないですが、最近は少し良いようです。僕は厚岸の栽培協会(日本栽培漁業協会厚岸事業所)に頼まれて、親ガニとなる雌ガニを集めていますが、赤い卵をもつものと黒い卵をもつものがいます。親ガニとして使うには赤いのと黒いのと、どちらが良いのでしょうか?

釧路水試: 黒い卵をもつものが親ガニとして適しています。今、日栽協の厚岸事業所ではケガニの種苗を作る親を確保するのに大変苦労しており、井嶋さんがいる漁協にも親ガニを確保するために協力を依頼しています。
ケガニの卵には、赤いのと黒いのがありますが、赤い卵は産んだばかりのものです。ケガニが卵を産むのは、地域によってもちがいますが、だいたい9月から翌3月頃で、この卵はすぐには孵化せず、孵化するのに1年半くらいかかります。孵化するまでの間、卵は親の腹に抱かれていて、赤い卵は育つにつれてだんだん黒くなっていきます。卵が育つ間、親ガ二は脱皮しないので卵は落ちたりしません。そして1年から1年半近くたった翌年の3月から4月頃に孵化します。ですから親ガニとしては、黒い卵をもったものが孵化までの期間が短くて適しています。このようにケガニは普通の魚に比べて産卵してから次に産卵するまでの期間が非常に長くかかります。また、十勝から釧路までのケガニは1つのグループとして考えられているので、この管内の漁業者は「同じ資源を使って生活している」ということをお互いに理解して資源を守っていく努力が必要です。

井嶋: そのような努力が必要ですね。

釧路水試: 今日は浜の生の声を聞かせてもらい、我々も大変参考になりました。話し足りなかったと思いますので、仲間の皆さんとまた顔を出してください。

司会: 時間となりましたのでこれで座談会を終了させていただきます。今日は短い時間でしたけれど魚種交代やケガニの生態など非常に興味深い話を聞かせていただきました。また、井嶋さんは、平成元年度の青年漁業士の称号を授与されるということで、今後浜の各種活動に一層活躍されることを期待しております。

-漁業土とは-

  200海里時代の到来により、本道沿岸の資源増大が急がれている中で、新しく高度な漁業技術の開発が道内各地で進められています。こうした中で、地域を活性化させ若い漁業後継者層の一層の資質向上を図るため、国の制度を受け、道では昭和61年から「北海道漁業士制度」を発足させ、浜で活躍されている漁業者の中から、地域漁業振興の中核となりうる漁業青年を青年漁業士として、また、漁村青少年の育成に指導的な役割などを果たしている中核的漁業者等を指導漁業士として、毎年それぞれ10名ずつ認定しております。
井嶋哲也さん紹介写真
井嶋哲也さん
  白糠漁業協同組合青年部長、釧勝地区漁業協同組合青年部連絡協議会役員。シシャモ桁網漁業、カニ篭漁業、コンブ採取漁業など営むかたわら地区の増殖試験事業、未利用漁場活用試験などに積極的に参加している。負けず嫌いの30才。