水産研究本部

試験研究は今 No.25「ケガニの標識漂流方法について」(1990年3月30日)

試験研究は今 No.25「ケガニの標識漂流方法について」(1990年3月30日)

Q&Aは平成元年度水産試験研究プラザの質問からです。

Q&A ケガニにはどのように標識をつけるのですか?

  今、全国で多くの魚貝類の種苗放流が行われておりますが、北海道でもサケを始め、ウニ、アワビ、ヒラメなどの放流が行われています。しかし、ただ放流するだけでは、それがどれだけ増えているのか、どれだけ漁獲に結びついているのかわかりません。そこで、これを調査するために「標識」を付けたものを放流しています。この「標識」の付け方としては獲ったとき放流したものだとはっきりわかるように、放流する動物に色をぬったり、札を付けたり、ヒレなどを切ったりします。

  では、ケガニではどうでしょうか?

  ケガニは、ご存知のとおり、脱皮して成長しますが、この点が他の魚貝類と大きく違っており、標識付けには大変苦労させられます。というのは、脱皮すると、外側の殻が全て脱ぎ捨てられるので、甲羅に色付けしても、次の脱皮までしかもたないからです。特に、成長の速い稚ガニは、わずかの期間で繰り返し脱皮しますので、この方法では使いものになりません。

  札を付けてみてはどうでしょうか?

  魚では標識が落ちないように、輪にしたり、止め具を付けたりして行いますが、ケガニでは、この標識が脱皮の時の邪魔になってしまい、古い殻からうまく脱出できずケガニが死んでしまいます。これでは放流しても何の意味もありませんので、標識がとれず、しかも脱皮の際にこの標識が殻から抜け落ちるような工夫が必要です。

    では身体のどこかの部分を切除して標識とする方法はどうでしょうか?

  ケガニには足がたくさんあるので、1本ぐらいならと思いますが、困ったことにケガニには脱皮した後に再生する能力があります。一回の脱皮で全て元どおりになるわけではありませんが、数回で元に戻ります。素晴らしい能力ですが、こちらにしてみれば厄介なもので、標識付けには向きません。これらの不都合な点を考えに入れて、新しい標識の開発を行っていますが、今のところ、最も良い結果を得ているのは写真の方法です。

  使用するのは手術に使う絹製の糸で、糸の両端には細び目を付けず、殻が抜け落ちやすいようにしてあります。糸を通す所も、脱皮の邪魔にならないよう、背中側の甲羅の側面と、腹側の甲羅の側面の癒合部(ここにそって殻が割れて脱皮します)から針を入れ、甲羅の端に通す様に.します。この方法ですと標識を付けたことによる斃死があまりありませんので、今年は、この方法で海に放流したいと考えています。

  今はまだ開発の途中ですが、これからは発想を少し変えて、体の染色や体内への埋め込み、化学物質の応用など、新しい標識の開発も行っていきたいと思っています。
(栽培漁業総合センーター)

    • 標識をつけた稚カニと標識をつける場所
  標識をつけた稚ガニ

  ケガニは、メガロッパ幼生から稚ガニになったばかりのものをC1(Cはカニの略)として脱皮するごとにC2C3・・・・・と数えます。写真はC6(6カ月)に成長した稚ガニです。