水産研究本部

試験研究は今 No.30「コンブはどうのように栄養を吸収するか。施肥の効果について」(1990年5月18日)

試験研究は今 No.30「コンブはどうのように栄養を吸収するか。施肥の効果について」(1990年5月18日)

Q&A? コンブはどのように栄養を吸収するのですか。施肥の効果についても教えてください。

  コンブは外形的には根、茎、葉の三つの部分に分かれていますが、それぞれの果たす役目は陸上の植物でいうほど、厳密なものではありません。

  例えば、陸上の植物では、根は水や養分を吸収し、茎は植物の体を支えたり、水や養分の通路の役目をし、葉は呼吸をしたり、光合成をするなど、それぞれの役目がはっきりしていますが、海藻の場合では、根といわれる部分は単に岩に付着し、体を固定する役目をするだけで、養分の吸収は体全体で行っています。

  海藻類の生長にとって光や温度とともに、必要な養分として栄養塩類が重要です。栄養塩類とは生物が正常な生活を営むために必要な塩類のことであり、海藻の生育に必要な量のほとんどは海水中に存在しており、不足することはありませんが、窒素やリン(植物プランクトンを含めると珪酸も)は欠乏しがちであり、海藻類の生育を阻害する場合があります。

  したがって、窒素やリン酸、珪酸は、海産植物にとって、特に重要なものであり、農業・園芸などでいう肥料の3要素に匹敵すると言えるでしょう。

  また、海水中の栄養塩濃度は一般に沿岸部や冷水域に多く、暖海に少ないこと、水深からみると表層ほど少なく、深層には多いことが確認されています。また、本道では、日本海沿岸域の栄養分が太平洋沿岸域に比べて1/5位であることが知られています。

  また、栄養塩濃度には季節的な変化がみられ、冬期に高く、春~秋にかけて最も低くなり、痕跡程度になってしまいます。栄養塩濃度が低くなる時期は、ちょうどコンブにとっても大切な時期にあたり、生長や実入り、成熟や再生期とも重なっており、この栄養塩類の不足はコンブにとって重大な影響を及ぼすこととなります。

  ですから、この時期に施肥をすると効果的であると考えられており、コンブを始めとする有用海藻類に対しては、以前から生長促進や品質向上を目的として施肥が行われてきました。この効果については、室内培養実験で明確な結果が得られていますし、また、養殖コンブの施肥試験では、小規模なため狭い範囲に限られますが、効果が得られているようです。

  現在、施肥に使用されている肥料は、比較的安価に入手できるという理由から、魚粕や煮汁、イカのゴロ、尿素が用いられています。しかし、魚粕や煮汁などのように有機物のままではコンブが栄養分として吸収することはできません。コンブに栄養分が吸収されるためには、こうした肥料に含まれたタンパク質やアミノ酸などの有機態窒素が海中でバクテリアの働きなどによって分解され、アンモニア態や硝酸態といった無機態の窒素にならなければなりません。

  また、こうした有機態から無機態への分解は、周りの環境条件によって大きく変化しますし、しかも無機態になっても潮流等の海水の動きによって、栄養分がコンブ漁場外に運び去られるなど、栄養分がコンブに吸収されるまでには、農地における施肥とは比べものにならない程複雑な要因が絡み合っています。

  したがって、施肥は海藻の生育・増産に有効な方法ではあるものの、一般的なコンブ漁場での施肥効果はまだ明確ではなく技術的にも確立されていません。このため、こうした技術上の問題を解決するため、稚内水試では平成2年度から新規事業で施肥試験を行うこととしています。
(稚内水試)

    • ブロック内に魚粕を設置している様子

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科学技術週間の行事

  中央水産試験場では、科学技術週間中の4月18日に、余市町にある豊丘小学校で水試の仕事などを紹介する講演会を開催しました。
 
  豊丘小学校は余市町の豊丘地区にある全校生徒数30名の小学校ですが、中央水試のスタッフによるビデオやスライドを使った説明に、子供達は日頃見たこともない水産生物の生態や稚貝、稚仔などに目を見張っていました。

  次代を担う青少年の科学する心を育むため、水試ではこのような機会をより多くもっていきたいと考えています。